本研究の目的は、超強加工により作製したバルクナノメタルの特異な摩耗特性を、摩擦摩耗により組織が変化した摩耗変質層の金属学的性質と力学特性と関連づけることにより明らかにして、耐摩耗性に優れたバルクナノメタルを開発することである。 これまでの研究において、バルクナノメタルとしてHPT加工材を採り上げ、純FeをHPT加工すると硬さや耐摩耗性が向上することが明らかにされている.そこで3年目である平成27年度では、炭素鋼S45CのHPT加工材を用いて、HPT加工回転回数が組織や硬さ、摩耗特性に及ぼす影響を明らかにし、その他の鉄系材料の摩耗特性と比較することに重点を置いて研究を実施した。 具体的には、試験材料を炭素鋼S45C焼ならし材とし、回転回数はN=0(圧縮のみ)、1/4、1/2、1、2、3の6水準で、圧縮応力5GPa、回転速度0.2rpmの条件でHPT加工を行い、種々の結晶粒径をもつ微細結晶粒材料を作製した。次に、トライボロジー特性の評価は、回転するディスクにボールを押し付けてすべり摩擦させるボールオンディスク摩耗試験機を用いてArガス雰囲気中で行った。 その結果、(1)S45CにHPT加工を行うと、純FeのHPT加工材の場合と同様に、HPT加工回転回数が増加するほど結晶粒は微細化され、最小で約0.2μmまで微細化された。(2)S45CをHPT加工すると、ビッカース硬さは上昇し、純Fe同様にHPT加工回転回数が増加するほど、またディスク中心から離れるほど硬くなった。しかしながら、回転回数が3回転以上では、割れが発生した。また、純Feのような硬さの飽和はみられず、純Feよりも硬くなることがわかった。(3)S45CのHPT加工材は、ビッカース硬さの上昇に伴って摩耗量が減少した。その摩耗量は他の鉄系材料と同等または若干多いことが分かった。
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