本申請課題では,突発的に乱流遷移が生じる管内流れにおいて,特に局所乱流塊である乱流パフの遷移過程と遷移条件に注目して研究を進めた.前年度までに,(1)自然遷移レイノルズ数25000以上の非常に安定した管内流実験装置の開発,(2)乱流パフ内の渦構造を効果的に抽出する可視化画像処理計測法の開発,(3)過去の申請者らの研究で得られた,複雑な層流-乱流境界の再現,および(4)マイクロバブル混入が乱流遷移に与える影響の統計評価を実現した. 最終年度にあたる本年度は特に,(3)の複雑な層流―乱流境界をもたらす物理を明らかにすることを目指した.攪乱と基本流れの成長過程に注目し,より小さな攪乱で効果的に乱流遷移が生じる条件において,基本流の変形と攪乱注入によりもたらされるヘアピン渦の振る舞いをPIVにより計測した.その結果として,渦の強さ(循環)は乱流パフの生成において重要な影響を与えないこと,ヘアピン渦の頭部が管中心付近にとどまり,基本流の変形が維持される場合に効果的に乱流パフが生成されることなどが明らかとなった.基本流の変形については,境界層の二次不安定などと関連させて議論することができるのではないかと考えている. また,LDVを用いて下流方向数点で速度変動計測を行い,パフの生成過程を評価した.その結果として,強い攪乱の注入により乱流遷移が即座に生じる場合においても,一度注入した攪乱が成長し,乱流スラグのような構造をとり,その後パフに向けて減衰することを示した.これに対して,弱い攪乱により効果的に乱流パフが生成される場合には,生成されたパフの「種」が下流への移流に伴い長さスケールを徐々に増大させ,また乱流混合を徐々に促進していく過程が示された.これらの違いを議論することが,遷移過程の本質に繋がるのではないかと期待している.
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