希薄気体効果のひとつである熱誘導流れを利用した気体の輸送システムの構築を目的として新たなシステムを提案し,その性能を数値解析ならびに実験により検討した.本研究で提案した熱誘導流れは,熱吸収の異なる表面に数本のスリットをあけた薄板周りに生じる 熱先端流れ(Thermal edge flow) である. 本システムの特徴は,薄板に赤外線ランプを照射することで,薄板の片側の面と,もう片方の面に生じる温度差により熱誘導流れを容易に発生させ,光の強度を変えることで流速の大きさを制御することが出来る他,熱ほふく流を利用した従来型のシステムよりも小さな温度比でも作動する点にある.また非常に単純な構造のため製作が容易であるという特徴もある.このシステムをモデル化した数値解析を行ったところ,薄板の代表長さを基準としたクヌッセン数がKn=0.1の時,薄板の片側の面ともう片側の面の温度比が1:1.05と小さくとも2~3m/sの流速が得られることを確認した.これは,従来の熱ほふく流を利用したシステムの温度比の1:2よりも小さい.またこのシステムを二つの真空容器をつないだ直径36mmのガラス管内に10~20枚程度並べ,赤外線ランプを照射させたところ,二つの容器の圧力に差が生じ,圧力低い側の圧力が,1 Pa, 薄板の温度比が1:1.1,薄板間隔が12.5mm,スリット幅とスリット間隔の比が1:1の時,高圧側と低圧側の圧力比が0.96となることを示した.また,圧力比は,スリットの幅とスリット間隔の比,薄板の間隔に依存することを確認した.これらの結果より,本システムが希薄気体領域の気流輸送システムとして有効に作用する可能性を示すことが出来た.
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