熱線流速計と壁面圧力センサーを用いて,乱流境界層の平均速度分布,速度変動振幅分布および速度・圧力相関分布について詳しく調べた.その結果,乱流遷移を促進させるトリッピングの方法によって,平均速度と速度変動振幅の分布にはほとんど影響していない一方, その下流で発達する乱流境界層でその速度・圧力相関分布に強く影響することが明らかとなった. それらの影響を精度良く定量化するには,乱流境界層の速度および長さスケールを支配している壁面せん断応力の高精度の測定が不可欠である.そのため,現状の分布より間接的に壁面摩擦応力を求める方法に加え,精度の高い測定が期待できるオイルフィルム法による測定,さらに壁面摩擦応力と密接な関係がある線形モードの移流速度の測定も行った.その結果,オイルフィルム法による壁面摩擦応力が高い精度で測定でき,線形モードの移流速度に比例関係があることがわかった. 最終年度に計画していたイタリアの巨大パイプによる測定は,施設の稼働が間に合わず,信州大学で大型チャンネル流を製作して実験を行うこととした.先行して行っていた低レイノルズ数の小型チャンネル実験で,流速変動スペクトラルに低周波ピークが発見され,近年,高レイノルズ数で報告されている’Large-scale feature’が存在することが示唆された.そのため,’Large-scale feature’ の装置やトリッピングの依存性を大型チャンネル流で調べることとした.熱線計測による速度変動スペクトル分布は,小型チャンネルの分布とほぼ一致しており,’Large-scale feature’が低レイノルズ数でも普遍的に存在することが実験的に実証された.このことは乱流の研究領域における重大な発見であると考えられる.
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