アルゴンで構成されるナノメートルスケールの液滴の平滑な固体壁面上における動的な濡れ広がり過程,同様の液滴の物理的凹凸を有する壁面上における平衡状態の濡れ,および水とアルコール混合物で構成されるナノメートルスケールの液滴の平衡状態における濡れについて,いずれも分子動力学法を用いた解析を行った.最初の濡れ広がり過程については,液滴内の密度,速度,応力の空間分布を抽出し,応力分布から接触線付近に働く力を求める方法論を確立した.また2つめの物理的凹凸を有する壁面上における濡れについては,新たに統計力学的な手法から固液,固気界面エネルギーを見積もることが可能であることを示し,これにより求めた界面張力のバランスがマクロスケールのYoungの式と一致することを示した.また3つめの水―アルコール混合系については,濡れ広がり過程への展開を見据えて,固液間が定常的に速度差を有する系に拡張し,その間の速度滑りに関してNavierの境界条件を介して界面における運動量輸送を固液間摩擦係数として定量化した.また,この固液間摩擦係数をGreen-Kubo式を用いた表式により平衡系で算出する手法を新たに導入し,非平衡系での結果との比較により,その妥当性の評価を行った.平衡系においては非平衡系と比較して計算時間が20倍程度短縮されることから,同様な結果を得られる強力な手法としての応用が期待できる. これらの結果について1件を国際学術誌に投稿し,既に掲載されたほか,国際会議において4回の発表と国内会議で複数回の発表を行った.このうち国際会議で2件,国内会議で2件の招待講演が含まれる.
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