研究課題/領域番号 |
25420141
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
坂下 弘人 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00142696)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱工学 / 二成分流体 / 限界熱流束 / プール沸騰 / 濃度分布 / 可視化 |
研究実績の概要 |
本年度は,昨年度に構築した伝熱面上の沸騰挙動の可視化用実験系を用いて,本格的な実験を実施した.伝熱面は幅20mm,長さ40mm,厚さ1mmのサファイアガラス製で,裏面に幅10mm,長さ40mmの範囲に導電性透明電極(ITO膜)を蒸着し,さらに可視化用のプリズムをITO膜に密着させて設置してある.可視化には,本年度新たに購入した半導体励起固体(DPSS)レーザー(出力500mW,波長532nm),および現有の高速ビデオカメラ(撮影最大速度8000fps)を用いた.当初の計画では,沸騰媒体に蛍光物質を溶解させ,レーザー誘起蛍光法により可視化する予定であったが,高熱流束域での沸騰挙動の可視化に必要な発光強度を得ることが難しいことが判明したため,伝熱面上面での全反射を利用した方法に変更して可視化を行った.この方法は,伝熱面上面が蒸気に覆われている場合に全反射を生じる条件でプリズムを介してレーザーを入射し,伝熱面上の気液の状況を可視化するものである. 可視化実験は,水の沸騰で熱流束q=0.7MW/m2,2-プロパノール水溶液の沸騰でq=1.4MW/m2までの条件で行った.その結果,水では乾燥領域が比較的ゆっくりとした周期で拡大と収縮を繰り返すのに対し,2-プロパノール水溶液では乾燥領域は大きく広がらずに斑点状に限定され,高頻度(最大で300~400Hz)で発生と消滅を繰り返すことが判明した.さらに,伝熱面平均の乾燥割合は,水ではq=0.7MW/m2で約50%に達するのに対し,2-プロパノール水溶液では水の2倍の熱流束(q=1.4MW/m2)でも約15%に留まることが分かった.この顕著な違いは,昨年度までの研究で明らかにしたように,2-プロパノール水溶液の沸騰で伝熱面近傍に形成される表面張力分布によるマランゴニ効果によるものと推察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,微細熱電対プローブによる局所濃度測定と伝熱面のドライアウト過程の可視化測定を通して,二成分流体による限界熱流束の促進機構を明らかにすることを目的としている. 平成25年度は,二成分流体として2-プロパノール水溶液を用いて,微細熱電対プローブによる局所濃度測定を実施した.その結果,局所温度の測定から2-プロパノールの局所濃度を特定することが可能であることを示し,当初の目的を達成することができた. 平成26年度は,前年度の実験を継続し,2-プロパノール水溶液の沸騰では伝熱面近傍で2-プロパノール濃度が急激に変化していることを明らかにした.また,得られた濃度分布から表面張力分布を求め,表面張力は伝熱面に向かって急増する分布を示し,気泡周囲には強いマランゴニ対流の発生が予想されることを明らかにした.これらの結果は本研究が初めて明らかにした知見である.さらに,可視化のための実験装置の製作と光学系の構築を行った. 平成27年度は,昨年度に構築した可視化測定系を用いて実験を実施した.その結果,可視化方法を,当初目的のレーザー誘起蛍光法から全反射を利用した方法に変更したが,高熱流束における伝熱面上の沸騰様相の可視化,という当初目的は十分に達成でき,水と2-プロパノール水溶液の沸騰では,沸騰様相に顕著な違いを生じていることを明らかにした.この違いは,昨年度までに明らかにした伝熱面近傍の表面張力分布に基づくマランゴニ効果によるものと推察され,この効果によって伝熱面近傍で顕著に厚い液層が形成されることで二成分流体の限界熱流束が促進されると考えられる. 以上,本研究は,当初の予定通りおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究成果に基づくと,二成分流体の沸騰における限界熱流束促進機構は以下のように推察される.二成分流体では,低沸点成分の選択的な蒸発により伝熱面近傍に顕著な濃度分布を生じる.これによって伝熱面近傍に大きな表面張力勾配が形成され,気泡周囲に強いマランゴニ対流が誘起される.このマランゴニ対流によって生じる力は気泡を伝熱面から離脱させる方向に作用するため,伝熱面上に厚い液膜を形成させるとともに気泡底部のドライアウトを抑制し限界熱流束を促進させる. 本年度は,上記の機構の妥当性を検討するための研究を実施する.具体的には,2-プロパノール水溶液を用いた沸騰可視化実験を限界熱流束までの高熱流束域まで行い,どのような過程を経て伝熱面上のドライアウト領域が拡大し限界熱流束に至るのかを明らかにする.また,2-プロパノール濃度を変化させた実験を行い,伝熱面近傍に形成される表面張力勾配の違い(マランゴニ対流強度の違い)が気泡挙動および伝熱面のドライアウト過程に与える影響を検討する.さらに,マランゴニ効果が気泡挙動に与える影響を検討している既往研究を参考に,伝熱面上で発生した気泡に働く力の大きさを見積り,気泡離脱挙動を検討する. 以上の検討によって,二成分流体の限界熱流束促進機構の解明を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度~平成27年度にかけて,申請者の研究室がある実験棟の全面的な改修工事が行われたため,平成26年9月~平成27年7月まで他の実験棟に仮移転する必要があった.仮移転および改修棟への再移転に伴う実験室の整備,および実験装置の再構築に時間がかかったことから当初計画に遅延が生じたため,事業期間の延長を申請するものである.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は,限界熱流束までの範囲で可視化実験を実施する.限界熱流束が発生すると伝熱面として用いているサファイアガラスが破損し使用不能となるため,サファイアガラスと購入費用と導電膜(ITO)の蒸着(外部業者に委託)費用として支出する.また,学会参加費・旅費にも充てる予定である.
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