炭素質PM(すす粒子)はディーゼル排ガス等に含まれる有害物質であり,炭化水素燃料の不完全燃焼により生成する.そのナノストラクチャは,燃料性状および火炎内における炭素質PMの生成・成長挙動等の履歴で変化すると考えられているが,その詳細については不明な点が多い. 平成27年度は,火炎内におけるPM一次粒子径の変化とナノストラクチャの関係,ならびにOHラジカルによる酸化の影響について調査した.測定対象はエチレンを燃料とする層流拡散火炎と部分予混合火炎であり,火炎サイズは同一とした.そして,レーザ誘起赤熱発光法(LII)でPMの一次粒子径を,レーザ誘起蛍光法(LIF)で火炎内におけるOHラジカルの相対的な濃度分布を測定した. その結果,火炎内におけるPM一次粒子径は当量比の高い火炎ほど大きく,火炎内においてPAHが存在しなくなる位置付近で粒子径が最大となることが分かった.そして,火炎内における粒子径の増加率も当量比の高い火炎ほど大きい傾向が確認された.なお,昨年度の成果から,一次粒子を構成する炭素結晶子サイズは当量比の高い火炎ほど小さく,また,火炎内における結晶子の成長率も比較的小さいことが確認されている.これらの結果から,当量比の高い火炎ほど火炎内における一次粒子の成長は速やかであるにも関わらず,一次粒子を構成する結晶子の成長は緩やかであることが分かった.結晶子成長の主要メカニズムに水素引き抜きアセチレン付加反応(HACA)機構があるが,粒子径が大きくなるほど粒子外層部のアセチレンが付加するサイトが減少するため,当量比の高い火炎ほど結晶子の成長が緩やかであったと考えることができる. また,一次粒子径はOHラジカル濃度が上昇し始める位置付近から減少するものの,結晶子の成長はOH濃度がピークとなる位置まで継続することが明らかとなった.
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