小型ディーゼルエンジンでは,火炎が燃焼室壁面に到達しクエンチングが生じ,これが未燃炭化水素の排出やデポジットの付着につながっていると考えられる.そこで本研究では,その基礎研究として炭化水素燃料の層流拡散火炎に壁面を挿入することにより,壁面に衝突した火炎内部の温度,燃焼ガス組成および粒子状物質を測定し,各種燃焼生成物の生成挙動に対する壁面によるクエンチングの影響を調査する.平成27年度は燃料をこれまでの軽油からプロパンに変更した.さらに挿入する壁面温度の影響を調査した.壁面温度は壁面として挿入する銅板の大きさを変えて変更できることを確認し,壁面温度が約270℃と330℃の場合と,さらに水冷壁も製作して壁面温度が約18℃の3条件について実験を行った.実験では火炎内部の温度を熱電対により計測するとともに,燃焼ガスをサンプリングして各化学種や粒子状物質(PM)の濃度を測定した.さらに,分光器を用いて火炎内の主要なラジカル種の発光強度分布も計測した.その結果,壁面を挿入することにより,壁面近傍では壁面を挿入しない火炎に比べて温度が低下するが,軽油の火炎の場合とは異なり,火炎上流部での温度低下は見られなかったことや,温度分布の壁面温度の違いによる差異はほとんどないことが明らかとなった.またCOやPMについては壁面近傍で濃度が上昇するが,濃度分布に対しても壁面温度の影響はほとんどなかった.また,分光計測の結果,火炎に壁面を挿入することによりCNやCHといったラジカルの発光強度も低下することがわかったが,これに対しても壁面温度の影響は顕著に表れなかった.以上から,火炎中に壁面を挿入することによりCOやPMといった未燃分の濃度は増加するが,壁面温度の影響は小さいことが明らかとなった.
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