研究概要 |
本研究課題の研究は, 多孔質のもつ多様な機能(毛管力による液供給, マイクロチャネル熱伝達, 触媒担持, 物質移動促進)を利用して, 熱源からの熱をカスケード状に利用することにより, 液体燃料の予熱, 気化, 反応を同時進行的に行わせ水素を発生させるパッシブプロセスに関して, 反応器を扁平で可撓性のあるリボン状とすることにより, 工場等の既設配管に巻き付けるだけで, 廃熱から無動力で効率よく水素を得るための, 多孔質層内の現象の解明と反応器設計の指針を得ることを目的とする。 実験では, 触媒を担持した多孔質粒子を充填したリボン状反応管(または細い反応管)の下端を原料液に浸し、管上部に熱を加える。加熱部内は乾燥して温度が上昇し, 触媒作用により水素を含む気体が生成して管上部出口から流出する。蒸発した分の原料液は毛管力により下端から自動吸引され, 加熱部からの熱により飽和温度まで予熱され蒸発し加熱区間に流入する。反応部, 蒸発部, 予熱部それぞれの層内伝熱と流動がプロセスの性能を決める。 1年目(平成25年度)は, 反応管の上半分を加熱した際の液体含有率分布と温度分布の変化を実験により調べ,また乾燥域が生成する条件について,液体含有率分布に対応した毛管力と粘性流動に基づく理論モデルによる解析を行った。結果として, 加熱量の増加とともに加熱区間内の液体含有率が減少し、乾燥域が形成して反応温度まで上昇した状態で蒸気生成が持続することを実験的に確認し, また乾燥域が形成する条件と影響因子を物理モデルにより示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は, 研究実施計画に沿って, 液供給部・蒸発部(多孔質充填層)における物質移動, 伝熱, 流動, 蒸気生成挙動を実験・理論解析により調べた。具体的には, 研究実績の概要に述べたように, 先ず, 反応管の上半分を加熱した際の液体含有率分布と温度分布の変化を実験により調べた。水を試料として電気抵抗法により含水を測定し, 非加熱状態からの管内含水率分布の変化を測定した。その結果, ある加熱量以上では, 加熱区間及び非加熱区間との境界付近の含水率が急激に低下してゼロとなること, 加熱部内は乾燥状態となり反応に適した温度まで上昇することがわかった。また, 乾燥域が生成する条件について,液体含有率分布に応じた毛管圧力と液体の粘性流動による摩擦圧力損失がバランスするとしたモデルによる解析を行った。その結果,含水率分布の加熱による変化及び多孔質層特性値の影響,また充填層内に乾燥域が形成する加熱量条件が明らかとなった。メタノールと水の混合液を用いた蒸発部の実験と解析はこれからであるが, 実験・測定体系や解析モデルの基本的な部分は構築できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度:先ず, メタノールと水の混合液を試料液に用いた場合の液供給部・蒸発部の実験と解析を行い, 乾燥部の形成条件を確認するとともに,蒸発部から流出する気体の組成を調べ, 供給液組成との関係を調べる。次に, 組成をメタノールの水蒸気改質反応のそれに予め調整した原料ガスを, 触媒を担持した多孔質粒子を充填した反応部に導入して温度・流量等を変化させ反応特性を実験的に調べる。特に, 本反応器体系で重要となる, 反応部圧力損失を蒸発部の毛管液供給圧力以下に保ちつつ反応収率を損なわない反応器内充填層構造を検討・試作し, 実際の反応器性能を調べる。 平成27年度:液供給・蒸発部と反応部を組み合わせたシステムにおける特性について調べる。特に熱源から反応器に伝わった熱が反応に一部吸収されながら残りの熱がカスケード的に液供給・蒸発部に伝わることによる反応器システムの動作特性やロバスト性は, 本提案システムにおける最も重要なポイントであり, コンパクトで効率の良い反応器となるための要件を明らかにする。組み合わせたシステムにおける反応器側, 液供給部・蒸発部側それぞれに求められる要件を実験及び理論解析により明らかにする。以上の結果をもとに, 本提案の反応器を設計するための基本的な指針を得る。
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