研究課題/領域番号 |
25420161
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
西村 龍夫 山口大学, 理工学研究科, 教授 (90136135)
|
研究分担者 |
國次 公司 山口大学, 理工学研究科, 助手 (10253171)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | レーリーテーラー不安定 / 二重拡散対流 / 中和反応 / 非定常物質移動解析 / 密度分布 |
研究実績の概要 |
本年度は,酢酸(CH3COOH)―NaOH水溶液における反応進行中の可視化実験を行い,1次元数値解析を用いて物質移動について考察を行った.実験に使用するHele-Show Cellは,高さ50 mm×幅65 mm×奥行き20 mmであり,上層と下層の2つのアクリル容器で構成されている.各アクリル中央には,溶液を注入するため,高さ25 mm×幅25 mm×奥行1 mmの空間が設けた. 上層CH3COOH水溶液(1.0 mol/L ,1006 kg / m3),下層にNaOH水溶液(0.3 mol / L ,1011 kg/m3)とした場合,時間の経過とともに不安定な蒲鉾状の反応面が形成されていくことがわかった.通常の化学反応流のレーリーテーラー不安定性が生じる系では,反応面は,複数の鋭角な突起形状が発生・消滅を繰り返しながら進行していくことが報告されている.本研究では,この理由について,1次元解析を用いて密度分布を算出し,考察を行った. y = -25 mmでは,NaOHのバルク密度 (1011 kg/m3 )と等しい.yの増加とともに,NaOH濃度の低下が生じるため,密度は減少する.反応面付近を見ると,密度は単調に減少せず,極大値を持つことが分かる.これは,NaOH層側に,CH3COONaが拡散し,それによって密度上昇が生じるためである.したがって,上述した蒲鉾状の反応面は,密度の極大値が出現することによってフィンガー型対流が生じた結果と考えられる.さらに,yが増加すると,CH3COONaおよびCH3COOHの濃度低下により,極小値が現れることが分かった.よって,反応面よりも上部空間においてもフィンガー型対流の存在が予想される.さらにyが増加すると,CH3COOH濃度の増加とともに,酢酸のバルク密度(1006 kg / m3 )に漸近することが分かった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度研究方針を修正したことにより,これまでに理解されていなかった,弱酸ー強塩基の中和反応における物質移動や対流発生のメカニズムが明らかとなった.とくに,この場合は,2段階で化学反応(1段目:遅い解離反応,2段目:中和反応)が生じるため,反応初期においては安定条件でも,時間の経過とともに不安定条件へ遷移していくことが示唆された.さらに,反応中は,密度の極大値および極小値をともない,フィンガー型対流が発生することにより,複数の蒲鉾状の突起形状をもつ反応面が形成されることが明らかとなった.
|
今後の研究の推進方策 |
概ね1次元的な考察は終了した.平成27年度は,熱・物質移動解析を2次元に拡張し,不安定流れを伴う移動現象解析を行う予定である.なお,レーザースペックル法における屈折率分布計測において,現状のHele-Shaw Cellでは,2つのアクリルセルを組み合わせたものであるため,反応初期の検討が難しかった.平成27年度は,Hele-Shaw Cellを改良し,数値解析と比較できるように,1つのアクリルセルからなるHele-Shaw Cellを用いて検討を行う予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,レーザースペックル法による屈折率分布計測を行う予定であった.しかし,肝心の酢酸ー水酸化ナトリウム系における反応面不安定の原因が理解できず,原料種の変更,気泡発生計測や温度計測などを用いて様々な原因の追及を行った.また,文献調査も同時進行で行っていった.また,反応進行時における1次元熱物質移動解析も行った.そのため,昨年度は,レーザースペックル法を用いた検討が十分にできなかった.
|
次年度使用額の使用計画 |
1)レーザースペックル法を用いた2次元屈折率分布を測定する予定である.そのためには,昨年度まで使用していた,分離型のヘレショウセルではなく,単体のヘレショウセルに改良する必要がある.また,可視化領域を拡大させるため,レンズ系の変更を行う予定である. 2)1次元数値解析を2次元に拡張する.とくに,狭い隙間での浮力対流を高精度に高速に解くための,ハイスペックなパソコンを購入する予定である.
|