研究課題/領域番号 |
25420165
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
光武 雄一 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20253586)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遷移沸騰 / ぬれ / 非定常温度計測 / 非定常沸騰 / 液滴 |
研究概要 |
Ni円板上に応答時間80μsのNi薄膜-Cr細線熱電対を正方格子配列で設置した試験伝熱面を作製した.エタノールの液過熱限界温度を超える最大260℃までの初期温度範囲の高温面上へ単一液滴或いは液滴列を衝突させたときの非定常沸騰中の表面温度・表面熱流束変化の計測と同時に高速ビデオによる沸騰状況観察を行った. 固液接触開始後の非定常沸騰過程の解明を目的とする単一液滴の実験結果から,固液接触開始後ぬれ状態の高温面が非ぬれ状態の膜沸騰へ移行するには,高々数msの短時間内での一次気泡の成長・合体による蒸気膜の生成過程を要することが分かった.ぬれ状態が維持可能な蒸気膜生成時間に注目して,高温面初期温度の上昇と伴い短くなる蒸気膜生成時間の特性に対する液滴速度,サブクール度,高温面の傾斜角の影響を評価した.特に,傾斜角つまり重力が大きな影響を持つことが分かった.さらに,有限の蒸気膜生成時間を示す高温面初期温度には下限温度が存在し,実験パラメータによって下限温度が偏倚することが分かった.下限温度以下の高温面では液滴が存在する間,ぬれ状態は維持される.測温点近傍の局所のぬれ・乾き状態に対応した表面温度・表面熱流束変動を取得し,蒸気膜生成期間中に固体側から液体側へ供給された積算熱量を評価した. スプレー冷却中の非定常沸騰過程を模擬実験で解明するため,液滴列衝突実験を行った.周期1.1~3.6msの範囲で液滴が高温面に繰り返し衝突する状況下で測定と観察を実施し,衝突周期毎のぬれと乾き状態に対応した変動を伴う冷却曲線と熱流束変化を得た.一周期中に固液接触面上に核沸騰を伴うぬれ面が最初に出現するときの表面温度をぬれ開始温度として評価した.同一サブクール度・液滴速度での冷却速度は,衝突周期の減少と伴に大きくなるが,蒸気膜生成時間<<液滴周期の条件において,ぬれ開始温度は衝突周期に依存しないことが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高温面上への単一液滴衝突実験では,高速ビデオを用いた非定常沸騰過程の詳細な観察結果と表面温度測定に基づく表面熱流束変化との対応付けによって,局所のぬれ・乾きに対応した非定常熱伝達特性を評価できた.さらに,高温面上での固液接触状態が実現される蒸気膜生成時間と高温面初期温度との関係に対するサブクール度,液滴速度,高温面の傾斜角の影響を明らかにし,特に傾斜角の影響が生成時間に強く影響することが分かった.高温面から液体側への供給熱量に基づく蒸気膜生成時間のモデル化については,現在検討を進めているところである. レイリー不安定に基づく液滴列供給装置を作製してスプレー冷却中の固液接触状況を模擬した液滴列衝突実験を行った.固液接触周期が制御された状況下において,高温面温度,傾斜角,サブクール,液滴速度に応じて決まる蒸気膜生成時間が冷却の進行と伴に100μsオーダーの極短時間から1msオーダーまで変化し,蒸気膜生成時間の変化に伴って,膜沸騰状態から部分的な核沸騰を生じる遷移沸騰を経て,定常的に高温面がぬらされている核沸騰域に至るまでの非定常沸騰過程を評価した.この実験では,蒸気膜生成時間に対して固液接触周期が十分小さくなる状況下では,ぬれ状態がより高い高温面上で実現可能となることが期待された.しかし,本年度は最小周期1.1 msまでしか安定した液滴列を生成できなかったため,確認ができなかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,研究計画書の内容に従って実施する予定である.ただし,本年度実施した実験結果より分かった課題については,さらに詳細な検討を追加して行うことにする. 具体的には,単一液滴衝突時の非定常沸騰実験において,高温面の傾斜角の顕著な影響が認められた.従来のスプレー冷却の研究においても非定常冷却特性に対する高温面の姿勢(傾斜角)の影響が報告されているため,傾斜角の影響をより詳細に調査する.一方,周期的な液滴列衝突実験については,液滴供給装置の改善を行い,より短い周期で固液接触が生じる状況での実験を行うことにより,スプレー冷却における高温側へのぬれ開始温度の偏倚について実験的に明らかにするつもりである
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