本研究では,細胞を大規模構造システムとして捉え,機械的振動に対する細胞の振動モードをミクロンオーダで測定するとともに,細胞の固有振動数を求めることを目的とする.さらに,振動モードに対応した細胞内の局所的な変形と生化学反応との対応関係を明らかにし,力学-生化学変換機構としての機械的振動に対する細胞の力学刺激感受システムを検討する.この目的達成のために,生きた細胞を使って,細胞の振動モードの測定システム構築と測定,および細胞内全体における局所的なひずみと生化学反応との対応関係の測定を行った.まず,マウス骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1において,細胞骨格の一種のアクチンフィラメントおよび細胞核を発光させ,蛍光顕微鏡ステージ上で圧電素子を用いて加振し,細胞の振動モードおよび共振曲線を測定するシステムを構築した.顕微鏡画像取得では,通常の連続撮影法だけでなく,ストロボ効果を利用した撮影法を確立した.その結果,今回の測定条件では,100 Hzまでの振動数では明瞭な振動モードが確認されないことを示した.さらに詳細な検討のためには,測定分解能の向上や他の細胞内小器官についての測定が必要である可能性を示唆した. 次に,細胞の振動モードを考慮して加振時に細胞内で大きく変形すると推察される部分に磁性粒子を付着させ,それにマイクロピペットを用いて微小な変形を与え,細胞内全体において局所的なひずみと生化学反応との対応関係の測定を行った.ひずみについてはアクチンフィラメントのひずみ,生化学反応についてはカルシウムイオンの濃度に注目した.その結果,細胞内のアクチンフィラメントのひずみ分布を取得し,その各局所でのひずみとカルシウムイオン濃度の変化率との間に単調増加関係があることを示した.これより,力学-生化学変換機構としての細胞の力学刺激感受システムの一部が明らかにされた.
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