魚類の多くは,体を波打たせ,尾ひれに向けて進行波を送ることで水中を推進する。この動きを船舶推進に工学利用する研究は数多い。しかしながら,魚体のように尾ひれに向かって細くなるくさび形弾性体上を伝播する波動を船舶の推進に利用していくには,くさび形弾性体の尾ひれでの反射波抑制を行う手法を実現し,推力と抗力のバランスに優れたくさび形弾性体形状を明らかにする必要がある。 はじめに,くさび形弾性体の尾ひれでの反射波抑制を行う手法に取り組んだ。くさび形弾性体の尾ひれ部に,一定区間だけ尾ひれと同じ厚みと幅の一様平板部を設け,先行研究で取り組んできた一様平板用の反射波制御法を適用した。これにより,くさび形弾性体の尾ひれにおいても反射波抑制を実現でき,この水中推進機を実験船に取り付けた実験でも,船の推進を確認できた。 また,当初計画では,くさび形弾性体の最適形状を流体-構造連成解析で解明すると示していたが,最終的には計算量が多すぎる問題を回避できず,駆動後数秒程度の解析結果を得ることしかできなかった。この場合,数ヘルツの駆動周波数で進行波を生成しても,頭部から尾ひれ部に到達する程度の過渡状態しか定量化できず,定常的な推力の算出などができない。そこで,実機でくさび形弾性体の推力などを求める計画に変更した。くさび形弾性体を利用した進行波型水中推進機を実験船に積み込み,この実験船の運動を高速度カメラで撮影した動画を解析して,加速度から推力を計算する手法を整備した。これにより,先行研究で実現していた一様平板利用型の進行波型水中推進機と推力を比較でき,くさび形弾性体の船体前進時の優位性を明らかにできた。
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