近年,創薬や電子産業分野において,微小粉体の輸送や分級等の物理的操作に期待が高まっている。しかしながら,固体でありながら液体や気体のように流動することが可能な粉体の正確な操作は難しく,現場においては長年の経験則に基づき物理的操作を行っている。特に,粒子径が数十um以下の粉体を数百ugから数mgオーダーで乾式輸送することは汎用のコンベアやブロワーを単純に小型化しただけでは不可能である。 そこで,構造が簡単で小型化が容易な弾性表面波(Surface Acoustic Wave: SAW)デバイスに注目した。SAWアクチュエータの研究に関しては,液体に関する報告が殆どで固体に関する報告は非常に少ない。SAWによる液体と粉体を含む固体の輸送においては,それら輸送方向が逆になるという興味深い特徴がある。このため,従来の共振周波数でSAWアクチュエータを駆動する方式では粉体がSAW上流側へ輸送され,開口部から粉体を落とすような供給機は原理的に製作することができなかった。 そこで本研究では,共振周波数以外でSAWアクチュエータを駆動する新規方式を提案し,本方式によりSAW下流方向へ粉体が輸送できることを実証した。その輸送速度はSAWを発生させる櫛歯電極のピッチサイズを大きくするほど速くなることがわかった。更に,SAWの伝搬路に金属膜パターンを設けることで,パターン上の粉体は輸送されにくくなり,抑制効果があることもわかった。 これらの結果を基に,金属膜パターンを誘導壁の代用としたSAW粉体供給機を設計・製作を行った。そして,実験より,本SAW粉体供給機を用いることで,粉体量を精度良く任意の位置に落下させることが可能となることがわかった。 以上,SAWの波動特性の検討はまだまだ足りていないが,本研究の本来の目標であった粉体輸送の高精度化については十分な成果を実験により得られたと自負している。
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