研究課題/領域番号 |
25420212
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
倉林 大輔 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (00334508)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 匂い源探索 / 飛翔筋位相差 / サーボスフィア / ベイズ推定 / カイコガ |
研究実績の概要 |
本研究では,雄カイコガ成虫の性フェロモン源探索行動を主な計測対象とし,感覚種別の多様性ではなく,状況依存的な行動選択過程の解明と,その目的行動に対する機能性の検証に取り組む.平成26年度は,研究計画に沿って,平成25年度に構築した新奇な実験装置である3自由度サーボスフィアを活用し,昆虫が発揮する匂い源探索行動の解析を行った. 3自由度サーボスフィアを用いることで,計測対象生物(昆虫)を自由歩行させながら,観測位置・姿勢を一定に維持することができるという特長を利用し,飛翔筋活動を計測する電気生理系を付与した.これを用い,行動中に周期的な発火を行う左右の飛翔筋応答の位相差を計測し,サポートベクターマシンによる分類器を構築することで,昆虫が行おうとする転向方向をリアルタイムに計測可能となった.またこれらの計測システムを用い,仮想環境と生物をリンクさせることにより,ベイズ推定を仮定した場合の昆虫軌跡に基づく匂い源推定結果の評価を行った.この結果,匂い源に対して幅方向の推定は比較的一致しているのに対し,距離方向には推定位置よりも匂い源に接近している,すなわちより効率的な行動を行っている可能性が示唆された.この結果によれば,昆虫は匂い源定位において単純にその位置を推定するのではなく,より効率的な目標定位のための行動を含む動作を行っている可能性が考えられる.また,飛翔筋活動の同時計測により,刺激入力への応答性が刺激受容経験によって変化することを示唆する結果が得られ,状況依存的行動応答変化を規範とする探索アルゴリズムの構築に向けた基礎データが得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究では,平成25年度に構築した実験系を拡張し,観測対象生物(昆虫)の行動を連続的に計測するとともに,飛翔筋電位の位相差に基づく転向方向推定システムを構築した.計測対象生物であるカイコガの匂い源探索行動はおおきく分けて直進(サージ)と左右転向(ジグザグ)からなること,これらを生成する神経系は別のものであること,が生物学の知見から分かっている.一方,空間探索アルゴリズムの観点からは,サージ行動は目標を見定めて距離を詰めるという情報活用行動,ジグザグ行動は情報を収集し推定目標位置の尤度を高める探索行動,と類推することができる.すなわち,この比率の状況依存的推移を計測することで,効率的な匂い源探索アルゴリズムの構成に資することができると考えられる. そこで本年度は,昨年度までに構築した装置に加えて飛翔筋活動に基づく行動推定を行った結果,統計的評価結果から状況依存的な応答特性変化があることが示唆された.また,尤度に基づく推定手法としてベイズ推定が広く知られているが,仮想空間と接続した実験システムにより,カイコガがベイズ推定により匂い源を推定していると仮定した結果と実際の行動結果の比較を行った.その結果,カイコガは尤度の向上を至上とするのではなく,距離を詰める行動を適宜適用し,結果として効率的な定位実現を図っていることが示唆された.このように,統計的評価に基づくカイコガの状況依存的行動特性についての知見獲得を進めることができた.次年度は,これらの知見に関する定量的なモデル化,およびカイコガの身体機能が果たす効果に関する検討をすすめ,匂い源定位アルゴリズムへの結実を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度では,計測対象生物の状況依存的な行動選択過程のモデル化,目的行動に対する機能性の評価,および身体機能が果たす効果を解析し,2次元平面において匂い源定位を達成するためのアルゴリズムおよび検証用ロボットの実現に取り組む.具体的には,行動応答の変化が持つ機能性を評価関数として表現し,人工物における動作アルゴリズムの行動規範を数理モデル化・実装する.本研究において取り上げる目的行動は,匂い(性フェロモン)源探索行動であることから,情報源推定における情報エントロピーの最大化を図っているのではないかという提案がこれまでになされている.しかし,情報エントロピーを最大化するということは,くまなく環境を探索するということに相当し,単純にその最大化のみを目的とすると定位達成に向けた行動の発現が妨げられる可能性がある.このような,知識利用と探索のジレンマを適切に解決しなければ効率的な問題解決は望めない.これについて,前年度における実験結果より,カイコガは知識利用と探索のバランスを適切に操作していることが示唆されていることから,情報エントロピーの増減と知覚状況・入力履歴の関係を同定し,知覚-行動連関の経時的可塑性を構成論的に確認する.また,仮想空間内で動作するシミュレーションエージェントを作成し,上記において同定した経時的可塑性の導入の有無と,目標行動達成の関連について統計的な検証を行い,その有効性を判定するとともに,これを取り入れた人工システムのためのアルゴリズムを構築する.以上によって,研究目標を達成する計画である.
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備考 |
研究者が作成しているwebページ
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