研究課題/領域番号 |
25420259
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
門脇 一則 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (60291506)
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研究分担者 |
尾崎 良太郎 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (90535361)
辻田 泉 愛媛県農林水産研究所, 農業研究部 栽培開発室, 主任研究員 (50558202)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パルスパワー / 農業応用 / 食物種子 / 細胞死 / プラズマ / バリア放電 / 成長促進 / 発芽抑制 |
研究実績の概要 |
農業・食品分野への高電圧応用研究は,農作物や加工食品の生産性向上につながる重要な研究であるが,その一方で,農作物の育成者権を守るための発芽抑制技術の必要性にも注目すべきである。しかし現状では放射線照射以外に適当な発芽抑制技術は見当たらない。この問題を解決するため,我々は極性反転パルスパワーによる発芽抑制の可能性について研究している。 1年目(2013年度),はだか麦種子に対して局所的パルス電界処理を施すことにより,種子のどの場所に電気的ストレスを加えるのが良いのかについて検討した。その結果,種子の胚領域への高電界パルス印加が発芽勢の抑制に有効である傾向が認められた。しかしながら,パルス放電処理と比べると,局所的パルス電界処理の発芽抑制効果は非常に小さいことから,放電による荷電粒子の衝突作用が,発芽の抑制機構において重要な役割を果たしていることがわかった。このような状況のもと,2年目(2014年度)は,様々な科の種子にバリア放電処理を施すことにより,「属」や「科」ごとの発芽抑制効果について探求した。レタス,人参,カイワレ大根,ブロッコリー,トマトの5種類を用意し,同条件にて処理したところ,放電処理の発芽に対する影響の大きさは,種子の種類に依存することがわかった。過去に多くの報告例があるカイワレ大根の場合,放電処理により茎の長さが長くなった。ブロッコリーやトマトでも同様の傾向が認められた。これに対して,レタスの場合,数分間の放電処理により発芽とその後の成長は促進され,さらにそれ以上の長時間の放電処理では発芽が抑制されるようになるというような,促進と抑制の両効果が明瞭に認められた。一方,人参の場合は,両方の効果ともに認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究結果から放電処理の優位性が認められたため,当初計画していたパルス電界処理における電界強度分布解析の実施は中止した。これに代わって,これまで評価対象としていなかった5種類の種子に対して放電処理を施した結果,次年度以降の成長度測定実験に適用すべき「属」や「科」の目処がたったことが2014年度に得られた成果のひとつである。 電界処理による発芽制御効果が認められない原因のひとつとして,パルス電圧の持つ周波数成分が十分に高くないため,種子細胞内部への電気的ストレスが伝わらないことが可能性としてあげられる。そこで,従来よりも立ち上がりが早くかつ幅の短いパルス電圧発生装置を設計・製作する必要性が出てきた。このような状況のもと,新規パルス電源の製作に先立ち,パルス伝搬シミュレーションプログラムを作成した。これにより,実験だけでは知り得ることのできなかった,波形の歪みの物理的要因(表皮効果,誘電体損など)を明らかにすることができた。これが2014年度に得られたもうひとつの成果である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)「属」や「科」にる発芽抑制効果の違い 2014年度に引き続き,様々な科の種子にバリア放電処理を施すことにより,「属」や「種」にる発芽抑制効果の違いについて調査を進める。具体的には,未調査領域である豆科植物(緑豆や大豆など)に対して放電処理後の発芽率と発芽勢を調査する。 (2)極短パルス電圧発生装置の設計と製作 (1)の調査と並行して,極短パルス電圧発生装置の設計と製作に取り組む。半導体スイッチよりも立ち上がり時間の早い高耐圧水銀スイッチを用いると共に,同軸ケーブルのポリエチレン部分を,より低誘電損の物質に変更することにより,立ち上がり1ナノ秒,幅10ナノ秒のパルス電源を作る。より高い周波数成分のパルスパワー投入による種子細胞内部への電気的ストレスの注入による発芽制御の可能性について探求する。 (3)放電処理後の成長度測定 発芽率が促進された後の成長度についても調査する。(1)の実験結果をもとに,高い再現性をもって促進作用の現れた種子に対し,放電処理を施してから育苗,収穫までの成長過程における放電処理の影響を調査する。
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