研究課題/領域番号 |
25420283
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
野崎 眞次 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 教授 (20237837)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 紫外光 / 光酸化 / 酸化物半導体 / ニッケル / 亜鉛 / FET / フレキシブルエレクトロニクス / プリンテッドエレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、光酸化法を活用して、金属酸化物半導体のプレーナー型PN接合を金属の酸化により形成する。金属酸化物半導体は両伝導形を得ることが一般に困難なので、電子デバイスの基礎となるPN接合の形成には、P形伝導を示す酸化ニッケル、N形伝導を示す酸化亜鉛を用いる。金属亜鉛を400℃で紫外線酸化して得られた酸化亜鉛は、ホール測定で1E16 cm-3オーダーの電子濃度、移動度2 cm2V-1s-1を示した。一方、酸化ニッケルは高抵抗を示すが、ホール測定はできなかった。そこで、あらたな欠陥を形成し抵抗値を下げるため、日本原子力研究機構で1MeVの電子線を照射したが、変化がなかった。また、Inの酸化物がN形伝導を示すことより、混晶を形成し、キャリア濃度を制御しようとInを拡散したところ表面にInが拡散されていることがXPSにより確認されたが、膜全体の電気特性には影響は見られなかった。また、前年度、ホール測定によりN形を示した酸化ニッケルの電気特性を確認するためにMOSキャパシターを作製し、そのリーク電流を測定したところ、膜自身はP形であることがわかった。N形伝導を示した理由として、裏面に残った未酸化のニッケルによる影響であることがわかった。しかし、前年度の研究成果よりN形Si上のニッケルを酸化して得られたNiO/Siが良好な整流特性を示すことからも、NiOはP形であり、ZnOと組み合わせるとPN接合ダイオードが得られると期待される。そこで、NiOとZnOの積層構造をZn上に堆積したNiからなる積層構造を400℃で同時酸化したところリーク電流が大きいものの整流性を示すPN接合が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、ZnOについては、ピンチオフ型のバックゲートのMOSFETを作製し、ZnOの電子濃度、移動度はFETの作製に適当であり、また酸化条件により電子濃度を高めたN+のZnOの作製も可能であることがわかったが、NiOの電気特性制御には至っていない。試行錯誤で、可能性のある方法を試したので、時間がかかり、やっと、その中でも有望な方法が見えてきたところである。また、電子ビーム蒸着装置の故障が多く、Niの蒸着も実験に必要な数行えなかったことも研究の遅れの原因である。本研究において重要なNiOの電気的特性の制御が達成されておらず、当初の計画では本研究最終年度である次年度前半にはZnO、NiOをチャンネル層にするMOSFET作製が行われる予定であったが、次年度後半にずれ込んでしまう。しかしながら、今年度の研究よりNiO/ZnOの隣接したPN接合の作製方針が明確となり、また低温で、塗布ガラスによるゲート酸化膜の作製技術が確立できたので、NiOの電気特性制御を除けば、おおむね順調に進展しているので、現在までの達成度は、やや遅れていると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、FET作製に必要な隣接したPN接合ダイオードを作製することであるが、P形のキャリア濃度の制御がまだ確立しておらず、その対策が急がれる。今年度の研究成果から、Li、Inのドーピングが、電気的には不確定ではあるが、何らかNiOそのものに影響を与えているので、膜全体にドーピングされるような工夫や表面だけでもその電気的特性への影響が明確になるような実験を行っていく。一般にLiなどアルカリ金属は反応性が高く、真空蒸着での堆積が困難とされているが、イタリアの企業が開発したLiを含んだ真空蒸着用加熱ボートをすでに発注しており、それを用いてLiドーピングを行っていく。今年度、積層のNiO/ZnOダイオードの作製を行って、整流性を得るにはNiとZnの相互拡散を抑制することが重要であり、その作製方法に拡散の度合いは大きく依存することがわかった。金属NiまたはZnは酸化物を拡散しやすいが、NiとZnは適当な酸化温度を選べば、相互拡散は起きないことが見いだされた。したがって、金属の積層を同時酸化し、NiO/ZnOの積層構造のダイオードを作製したところ、I-V特性に整流性が確認された。FETでは、隣接したPN接合を形成するので、隣接したNiとZnを同時酸化すればPN接合が得やすいと期待される。また、今年度、Si上の塗布ガラス溶液を光酸化することにより150oCで良質なMOSキャパシターを作製する技術を確立したので、NiO、ZnO上でも堆積した塗布ガラスをゲート酸化膜としたMOSキャパシターを作製し、評価する。以上より、本研究の目的であるNiOおよびZnO MOSFETの作製技術が確立される。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、真空蒸着装置の故障が頻繁に起き、NiO試料の作製が滞り、その電気特性制御の確立に必要な再実験が十分にできず、NiO作製に必要な消耗品の購入が当初の予定より少なかった。また、NiO/ZnO積層ダイオードの作製条件を確立したものの、電気的特性評価に用いるクライオスタットの納品が、年度末近くになってしまい、ダイオードの測定を十分に行えず、電気測定に必要な消耗品の購入も当初の予定より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、当初の予定よりもNiO、ダイオード試料の作製回数を増やし、電気測定を頻繁に行うため、作製、測定に必要な消耗品に繰り越した金額を使用する。
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