グラフェンを大気中でマスクレスでレーザー加工する手法を開発すること,および,その際にグラフェンの層数を選択できる手法を確立することを目的として研究を推進した。本年度の実績を以下に示す。 前年度までに,グラフェンを大気中でレーザー加工できることと,層数選択的な加工ができることを実証したが,その機構については未解明のままであった。そのため,本年度は,試料を加熱した状態でレーザーを照射する実験を行った。その結果,試料温度が200℃のときの方が,室温のときに比べて,グラフェンを加工するために必要なレーザーパワーが大きいことが分かった(この実験結果については論文投稿準備中である)。このことは,グラフェンのレーザー加工の機構がレーザー照射時のグラフェンの温度そのものではないということを意味している。つまり,グラフェンと基板の温度上昇にともなう膨張によりグラフェンが運動エネルギーを得て基板から脱離している可能性を強く示唆している。そこで,各層の温度分布をコンピュータ・シミュレーションによって求め,そこから,基板の熱膨張の様子のシミュレーションを行った。その結果,基板の熱膨張からグラフェンがうけとる運動エネルギーが,加工の機構に関係していることを示唆する結果が得られたが,実験結果の数値を再現するまでは至らなかった。グラフェンのレーザー加工の機構の追求に関する研究は現在も継続中である。また,SiO2/Si 基板以外の基板上のグラフェンをマスクレスレーザー加工するための手法についての研究も継続中である。
|