研究課題/領域番号 |
25420307
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
ビジョラ ガルシア 独立行政法人物質・材料研究機構, 光・電子材料ユニット, 主任研究員 (90421411)
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研究分担者 |
大島 祐一 独立行政法人物質・材料研究機構, 光・電子材料ユニット, 主任研究員 (70623528)
島村 清史 独立行政法人物質・材料研究機構, 光・電子材料ユニット, グループリーダー (90271965)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化ガリウム / 酸化物半導体 / ワイドギャップ半導体 / パワー半導体 / パワーデバイス |
研究実績の概要 |
(1) 異種基板上のβ-Ga2O3のHVPE成長 β-Ga2O3のHVPE成長はGaClとO2との反応により行うが、この反応の平衡定数はGaNのHVPEと比較してかなり大きい。そのため、当初は粉末が堆積するのみで膜成長は見られなかった。しかし、原料ガス供給方法を改良することにより、膜成長を実現した。改良した成長装置および成長条件を用いてサファイアc面基板上に成長させたβ-Ga2O3膜は、MBEなど他の成長方法で報告されているのと同様に(-201)の面外配向を有することを明らかにした。 (2) (-201)配向β-Ga2O3の高速成長 HVPEによる(-201)配向β-Ga2O3の成長速度の、GaClおよびO2原料供給分圧を調査した。成長速度は、GaCl分圧およびO2分圧に対して単調に増加し、250um/hを超える成長速度が得られることを見出した。これは、MBE等で従来報告されている値の100倍以上に相当する。ただし、成長速度が大きいほど表面が荒れる傾向があり、今後の改善が必要である。 (3) オフ基板を用いた面内配向制御 HVPEにより(-201)配向のβ-Ga2O3が得られたものの、X線極点図により面内配向を調べたところ、他の成長方法で報告されているのと同様に、面内で60度ずつ回転した6種類のドメインが混在していることがわかった。これは、基板の面内回転対称性がエピ層のそれよりも高いためと考えられる。そこで、c面サファイア基板にオフ角度を導入し、面内の回転対称性を減ずることで回転ドメインの発生を抑制する方法を考案した。実験の結果、オフ角が僅か2度でもドメインが6種類から3種類に減少し、しかもオフ方向に沿ったピークの強度が増し、その他のピーク強度は減少した。この傾向はオフ角度の増加と共に促進され、5度以上では単結晶ライクな極点図が得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験開始当初は気相反応による粉末発生などの問題が起こったものの、成長条件やリアクタ内部構造の見直しにより改善し、膜成長が実現し、さらにGaN並みの高速成長が可能なことを見出した。β-Ga2O3のパワーデバイス応用では、所定の耐圧を確保するために厚膜成長が必要になることも考えられ、高速成長が可能なことを見出した意義は大きい。さらに、将来的には、HVPEによる大口径β-Ga2O3自立基板の作製も視野に入ってくる。また、異種基板上の成長は当初はホモエピ成長に備えた条件出し的な位置づけのつもりであったが、前述したようにオフ基板を用いることで、面内回転ドメインの発生を効果的に抑制できることを初めて見出した。異種基板上のβ-Ga2O3の面内回転ドメインの発生は、HVPEに限らず他の成長法においても長年の懸案であり、その制御に成功した例は無かったが、今回、単結晶薄膜化に向けて大きく前進したといえる。c面サファイア基板は近年の白色LEDの普及に伴って大面積・高品質のものが安価に入手できる。c面サファイア基板上で上記のような技術が可能であることを見出したことは工業的にも価値がある。なお、β-Ga2O3バルク基板上のホモエピの検討も併せて行っており、基板と同じX線半値幅を示すホモエピ層が得られることを確認している。現在、より詳細な結晶欠陥の評価を行っている。以上の理由から、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、c面サファイアオフ基板を用いることでβ-Ga2O3層の面内配向を制御できることがわかったが、その具体的なメカニズムは明らかになっていない。まずはより詳細なグレイン構造をEBSD等によって明らかにするのと同時に、成長開始界面の具体的な結合構造を検討していく必要がある。これにより、面内配向のさらなる改善に向けた知見が得られると期待される。また、本手法によるβ-Ga2O3膜には、別の面外配向をもつドメインが若干検出される。そのため、特に成長初期過程における成長条件の最適化が必要である。当該のドメインはβ-Ga2O3層と基板との界面付近に局在していることがわかっており、厚膜化によっても低減が可能な見通しを得ている。また、X線ロッキングカーブの半値幅がまだ非常に広く、結晶性向上の検討も必要である。転位や積層欠陥等の状況を調べることも重要である。それにより、高品質化の指針が得られると期待される。さらに、得られたβ-Ga2O3膜のデバイス応用可能性を検討するには、電気特性の制御を実現する必要がある。今後、ドーピングによる電気特性の制御にも取り組んでいく。 また、詳細は検討中だが、低温成長により、α-Ga2O3の単結晶膜が得られることがわかってきた。α-Ga2O3はβ-Ga2O3と同等かそれ以上のバンドギャップを有するワイドギャップ半導体であるだけでなく、同じくコランダム構造を有する他の酸化物との混晶化により様々な機能発現が期待される魅力的な物質である。今後は、このα-Ga2O3についても併せて検討を進めていく。
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