研究課題/領域番号 |
25420311
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木野 彩子 東北大学, 医工学研究科, 産学官連携研究員 (30536082)
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研究分担者 |
松浦 祐司 東北大学, 医工学研究科, 教授 (10241530)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中空光ファイバ / 全反射プローブ / 血中グルコース濃度 |
研究実績の概要 |
プリズムの押し付け圧力によるATR測定値の変動の影響を低減するため,i)圧力を一定化する機構の導入,ii)圧力変動の影響を低減する数値処理,iii)圧力の影響を受けない新しい測定手法の開発,の3通りの対応のうち,25年度に引き続きii)およびiii)について検討した. ii)については,これまでスクワランオイル等を測定前に塗布し内部標準物質としてピーク強度の正規化を行うことにより一定の効果を得たが,測定部位による浸透度の差異や塗布量・面積の統一などの問題が残った.改めて測定部位自体に必ず含まれる蛋白質等成分のピーク強度を用い,測定回毎に正規化を行う方法について詳細に検討を行った.成分別に比較したところ,測定対象のグルコースや水との吸収波長の重なりがないアミドIIを基準とすることで,新たに導入した多重反射型プリズムの深達長の効果もあり良好な結果が得られた. iii)としては,現状のものと比較して試料への接触面積が大きいATRプリズムを用いる方法について引き続き検討を行った.このようなプリズムでは接触面の圧力密度が低く,圧力変動の影響の低減が見込めるうえ,試料表面での反射回数の増大が可能となる.昨年度試作したSiプリズムでは目的波長でのSi自体の材料吸収が問題となったが,ZnSeで同様の多重反射プリズムを製作・導入したところ,圧力変動による測定誤差の低減および反射回数によるスペクトル増強の両方について予想された効果が得られた.また,ZnSeでは生体試料との屈折率差が低く,光の深達度が大きくなる利点もある.反射回数増大の利益と光路長の増大による反射角度の分散/プリズムの材料吸収の不利益との関係について最適化を行い,入射端面への反射防止コーティングの導入も試みた.このZnSeプリズムを用いてヒト口腔粘膜でのグルコース濃度の測定を行ったところ,摂食前後のグルコース吸収ピークの変動の様子が観測された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プリズムの押し付け圧力によるATR測定誤差の低減を目標とし,当初の実施計画に沿ってi)圧力を一定化する機構の導入,ii)圧力変動の影響を低減する数値処理,iii)圧力の影響を受けない新しい測定手法の開発,の3通りの対応について検討した結果,ii)について正規化の基準となる試料生体部位由来の吸収ピークを特定し,測定回毎のスペクトル強度補正を行うことで一定率の変動誤差低減を達成した.また,iii)については新しくZnSeの多重反射プリズムを製作・導入することにより,S/N比が大幅に改善された. 以上の結果を総合して現時点での測定系および解析手法の最適化を行った結果,実際にヒト口腔粘膜で得られたグルコース濃度のATRスペクトル測定値の食前食後の時間変動は,同時並行で行われた採血を伴う既存法による血糖値の測定結果の時間変動に追随しており,非侵襲的血糖値測定の実用化へ向けて大きく前進したといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでのプリズムの押し付け圧力変動によるATR測定誤差低減の結果を総括し,再現性についても検討を加え,既存の簡易血液検査法と同程度である誤差10%の実現を目指す.さらに大きな光量を導入可能な平面プリズムの形状についての検討も加える. 次に,測定時間の短縮について検討する.現状のFTIR分光器を用いた測定では,光源の強度が小さく十分な感度を得るために一定の積分時間が必要となり,これ以上の時間短縮は難しい.そこで,より大きな光出力が得られる量子カスケードレーザ(QCL)を用いた測定法について検討する.QCLは単一波長で発振するためその波長を選択する必要があるが,これまでのFTIRによる検討により明らかになっているグルコースの吸収ピーク(1,040 cm-1)を選択し,QCLの銅座温度をペルチェ素子で制御することにより発振波長をコントロールする.また,基準物質を用いた正規化を行うために必要な基準波長との2波長による測定を行えば信頼性の高い分析が可能であるため,二つのQCLからの光を結合させて測定を行う系を構築する.その際には二つのQCL間でパルスのタイミングをずらし,一つの検出器で測定を行う.これにより現状の測定時間(約2分)を10秒程度まで短縮することが期待できるが,測定系の最適化を進めながら,実際にどの程度の時間短縮を達成できるかについて検討する. さらに,QCLを光源とする測定系は現行のFTIR分光器による系と比較して小型化が期待できるため,現状では大型の机ひとつを占有している状態から,50×50 cm2程度の小型の装置の実現を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に購入の消耗品の総額見込に多少のずれが生じ数千円が残った.
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次年度使用額の使用計画 |
全額を次年度の消耗品購入に繰り入れる.
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