研究課題/領域番号 |
25420321
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
雨宮 智宏 東京工業大学, 量子ナノエレクトロニクス研究センター, 助教 (80551275)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 光集積 / メタマテリアル / 化合物半導体 |
研究概要 |
素子は、マッハツェンダー(MZ)導波路の各アームに金属微細共振器(メタマテリアル)が一列に埋め込まれた構造となっている。両アームの共振器は各々異なる共振周波数を持ち、その1つは1.55μmで共振するよう設計されている。入射光の周波数が共振器の共振周波数と一致すると、入射光と金属共振器が共鳴して透磁率に変化が生じる(導波路の透磁率が1以外の値になる)。ここで、素子上部からゲート電圧をかけ、共振周波数をシフトさせることで、対象入射波長に対する透磁率の値を制御することができる。 本素子では特殊な微細共振器構造を採用しており、我々はそれをトライゲートメタマテリアル(Tri-gate metamaterial: TGM)と呼んでいる。TGMの単位ユニットは、金属リングがInGaAsフィンアレイ(浅い溝による周期構造)を挟む構造となっている。共振器は、ナノスケールのRLC回路と等価であり、本構造における容量Cは主にInGaAsフィンに依るものである。共振器の特性制御については、InGaAs内のキャリア密度を変化させることで行う。デバイス上部からゲート電圧を印加することで、フィンに伝導キャリアを生成し、それに伴って金属共振器のギャップ容量Cを変化させる(動作原理としては、FINFETのチャネル領域に対するものと同じである)。 測定は偏波スタビライザにより得られた単一偏波状態の信号光を対象サンプルに入射し、1550nmに対する透過光強度のゲート電圧依存性を観測した。TGMのサイズが300×300nmの素子に限って、ゲート電圧印加に依存して透過光強度の増加が見られた。実験で得られた消光比は6.9dBであり、変調電圧はおよそ2-12Vの間であった。これは300×300nmのサイズのTGMのみ光通信帯にて透磁率変化が起こることを意味している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最終的に作製したメタマテリアル装荷型MZI素子の透過特性から、リング外径300 nmの構造においてのみ、ゲート電圧に伴って透過強度に6.9 dBの変化が得られた。FTIRによる透過特性からもリング外径300 nmの構造において、ちょうど1.55μmでLC共振する(透磁率が変化する)ことが見積もられており、一致をみている。本結果により、光集積デバイスにおいて透磁率を利用することが非常に有用であることが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
本デバイスにおける特性を基に、TGMを有する導波路の有効誘電率と透磁率(=有効屈折率)を計算する必要がある。そこで今後の研究方針として、以下の手順により伝搬特性の解析を行う。 1. 半導体デバイスシミュレータ(Silvaco Device3D)により、ゲート電圧印加に伴って発生するTGM周辺のキャリア密度解析を行う。InGaAsにおける複素屈折率のキャリア密度依存性を計算する。キャリアによる光学特性変化の寄与には、屈折率を下げる効果(反導波作用)として、バンドフィリング効果、自由キャリアプラズマ効果を考える。一方、屈折率を上げる効果(導波作用)として、バンドギャップ収縮を考慮する。 2. 上記に基づいて、TGM周辺における複素屈折率の分布を求める。 3 メタマテリアルアレイを有する導波路1周期分(微細金属共振器1つ分)に対する電磁界解析を行うことで、Sパラメータを導出する。電磁界解析については有限要素法(FEM)を用いており、導波路1周期分の構造はメタマテリアル一つ分の構造とする。ここで解析したSパラメータから誘電率および透磁率の再構成を行う。再構成の具体的な方法については、Phys. Rev. E 71, 036617 (2005)を参考にする。 4 3得られた誘電率および透磁率を用いることで、実際にMZ型変調器の導波モード解析を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
購入予定であったソフトウェア料金を次年度に回したことで、その分の差額が発生した。本年度は実験側に注力したこともあり、シミュレーションについては既存のソフトウェアで代用した。 次年度に本来購入予定であったソフトウェアを取得する。対象ソフトウェア納品、それを動かすためのハードウェア環境(PC類その他)は既に整っており、迅速に研究の一環に組み込むことが出来ると考えている。
|