近年、安心安全の一つの具現化として自動車衝突防止センサの目覚しい発展がある。その中で電波を利用したミリ波帯レーダが代表的であるが、それらには接触直前までの精密な動作が要求されているにもかかわらず、レーダが検出する対象物の近傍での反射断面積は、粗い近似式を使ってレーダ機器を評価設計しているのが現状である。 本研究では、従来の遠方距離あるいは粗い近似式で近傍評価していたレーダ反射断面積を遠方から近傍まで評価できる精密な高周波計算法の確立とそのコード化を目的としている。このためには、レーダとの距離が近傍でもレーダに帰ってくる反射強度等の精密な見積もりが必須であり、高周波理論による評価法の確立が強く望まれる所以となっている。このような実環境を意識したレーダ断面積を精度よく予測する評価式とシミュレーションコードを開発し、その妥当性有効性を確認することを研究の目的としている。 平成28年度には、前年度までの主な研究成果を国内外の学会で発表し広く周知した。特に、近傍領域でのレーダ断面積の分かり易い計算方法の説明に注力した。一方、レーダ断面積と関連してメタマテリアルによる散乱理論に関しても学会で発表した。研究期間中に考案開発した理論評価式、陰影処理アルゴリズム、実測値と理論計算値の比較データ等を平成28年度に最終の技術成果報告書として作成した。 本課題の研究期間中全体では、幾何光学的解説理論(GTD)による3次物体の近傍レーダ散乱断面積の理論式を構築し、3面コーナーリフレクターなどの簡単な形状物体による実測値と比較することで、妥当性を確認した。任意形状の物体を想定した計算評価コードもほぼ完了しており、この際、電磁波が光学的に照射する境界の算出、いわゆる陰影処理にアダプティブなアルゴリズムを考案し、計算全般の処理時間の改善を行った。
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