本研究は,超広帯域レーダを用いたセンシング技術の性能向上を目的として,確率的手法を用いたレーダ信号処理法の開発を行い,その埋設物識別や構造物非破壊診断への応用を目指すものである.前年度までに,識別・診断のための新たな特徴量の提案,状態遷移確率モデルを用いた計測データの系列情報の処理法の検討を行うとともに,センシング用アレイアンテナの製作,挿入型センシングアンテナの設計を行ってきた.今年度は最終年として,これまで得られた結果を踏まえて,提案した特徴量の有効性の検討,系列情報処理法の検討,挿入型センシングアンテナの特性評価を行った.以下,その結果についてまとめる. (1) 散乱伝達関数の位相特徴量については,波形のわずかな変化に対しても敏感であり,整合フィルタでは検出や識別が難しい場合でも有効であることが確認できた. (2) 状態遷移確率モデルを用いた系列情報処理については,隠れマルコフモデルを用いることにより,散乱応答の系列データを処理し,尤度を用いて識別・診断する方法を示した.次のステップとして,実際のデータを用いた具体的な性能評価を行う必要があるが,これは今後の課題である. (3) 挿入型センシングアンテナについては,シミュレーションにより設計したアンテナのプロトタイプの作成を行った.その結果,アンテナ単体の特性としては概ね期待どおりの良好な性能が得られた.このアンテナを実際に使用する場合,アンテナを保護するスリーブを装荷し,細穴に挿入しなければならない.そのような環境下ではアンテナの特性が変化するため,さらに詳しくアンテナの構造を検討する必要がある.これに関しては今後の研究課題である.
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