研究課題/領域番号 |
25420338
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
伊藤 信之 岡山県立大学, 情報工学部, 教授 (10598519)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 電圧制御発振器 / 位相雑音 / MOSバラクタ / インダクタ / 表皮効果 / 準ミリ波 / ミリ波 |
研究概要 |
1.MOSバラクタのQ値向上とそれによる電圧制御発振器の位相雑音の向上 MOSバラクタのQ値向上方法としてゲート長の微細化により、一ユニットあたりの寄生抵抗を低減し、更に一定の容量値を得るためにユニット数を増加(並列接続)する事によって、全体としての寄生抵抗を大幅に削減することが可能となったが、一方、ゲート長が微細になることによって、配線等の寄生容量が増加し、MOSバラクタの容量可変範囲は低減することが見いだされた。具体的には、ゲート長2umから0.26umに低減することにより、Q値は約7倍向上し、容量可変範囲は約40%低減した。 そのMOSバラクタを用いて、電圧制御発振器を試作・評価した結果、発振周波数約22GHzの発振器において、1MHz離調の位相雑音が約5dB向上することが可能となった。これは、共振器全体のQ値として約2倍向上したこととなり、MOSバラクタのQ値の共振器全体のQ値に対する寄与率が約40%程度であるためである。なお、本結果は、電子情報通信学会英文論文誌2014年3月号に掲載された。 2.インダクタのQ値向上とそれによる電圧制御発振器の位相雑音の向上 インダクタを断面積一定のもとストライプ形状とすることによって、期待される表皮効果を抑える効果により、高周波領域における寄生抵抗を低減させ、インダクタのQ値向上とそれを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上を検討した。具体的には、インダクタのメタルを3分割することにより実質的な寄生抵抗を(W + T)/(W + 3T)に低減し(W:メタル配線の幅、T:メタル配線の厚さ)、そのインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音を評価し、3分割の効果を検討した結果、発振周波数21GHzの電圧制御発振器において、位相雑音を3~5dB向上することを確認した。この結果を、2013年アジアパシフィックマイクロ波会議において口頭発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
採択時の平成25年度目標は、MOSバラクタのQ値向上とそれによる電圧制御発振器の位相雑音の向上とストライプ形状のインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上であり、それぞれの達成度は以下のようである。 1.MOSバラクタのQ値向上とそれによる電圧制御発振器の位相雑音の向上 ゲート長の異なるMOSバラクタを設計・試作・評価した。MOSバラクタ単体のQ値向上を解析式、シミュレーション、実測値の三者で確認できた。また、そのようなMOSバラクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上に関しても、22GHzの電圧制御発振器を設計・試作・評価することによって解析式、シミュレーション、実測値の三者で確認できた。 2.ストライプ形状のインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上 ストライプ形状のインダクタおよびそれを用いた21GHzの電圧制御発振器を、設計・試作・評価した。ストライプ形状のインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上が確認できた。 上記のように、当初の計画に対して、計画以上に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
ストライプ形状のインダクタを用いた電圧制御発振器の位相雑音の向上が確認されたため、今後の方針として、(1)更に周波数の高い領域(ミリ波領域)における位相雑音向上の確認、(2)ストライプ形状のパラメータ依存性(スペース幅依存性)、(3)3次元的なストライプ形状の検討、(4)インダクタ自体のQ値向上の確認、等を行っていく予定である。 また、インダクタ・バラクタだけではなく、近年のLC共振器を構成するキャパシタの一部である、固定容量キャパシタの解析を行っていく必要がある。つまり、微細化とともに用いられるようになってきたメタル配線を用いたキャパシタにおいては、そのフィンガー長が長くなると寄生インダクタンス成分が大きくなる可能性がある。また、インダクタと同じように表皮効果についても重要と考えられるため、電磁界解析・実験を通して、メタルフィンガーキャパシタのフィンガー長依存性等の評価・解析を行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究申請時の支出予定の大半は、VDECによるチップ試作であったが、昨年、VDECにおける富士通65nmプロセスの提供が中止となった。これにより本研究の進行が危ぶまれたが、代替として(株)東芝の好意によりチップ試作を行う事が可能となり、平成25年度に最初の設計・試作を行え、研究の進行は一気に加速した。その成果はAPMC(アジアパシフィックマイクロ波会議)にて発表を行ったが、研究が進む一方、インダクタの分割形状依存性、発振周波数依存性の把握無しには、体系的な結果が得られないことも分かり、30GHz以上の周波数による研究の必要性が大となり、次年度使用額を増額する必要が生じた。 平成25年度は、発振周波数21GHzの発振器を、周波数変換を行い測定していたが、30GHz以上の周波数では周波数変換が困難なため、新たなシグナルアナライザの導入が必要となり、上記次年度使用額+研究費の前倒しにより、アジレントテクノロジー社のN9010A-532を導入する。 また、研究協力者の大学院学生 辻大輝君が、本テーマの一部について今秋仙台で開催されるAPMCにて発表予定であり、その旅費を支出する予定である。
|