研究概要 |
本研究では,ナノCMOS 時代の微細化によるアナログ回路の精度劣化, 消費電力急増の課題を解決するため, デジタル信号処理技術とアナログ回路技術を融合した集積回路設計手法を利用し,高精度かつ低消費電力のアナログ・デジタル混載LSI の開発を目指している.高精度かつ低消費電力のアナログ・デジタル混載LSIでは欠かせない,アナログ・デジタル変換器(AD 変換器) 回路を取り上げ,実用上の問題点である高い消費電力に焦点を合わせ,消費電力を削減する新規技術の開発を目的としている. 研究の初年度では,本研究の主幹であるΔ∑変調器の全体構成の検討,および微分量子化器の回路方式の検討に注力した.回路全体構成の検討では,アナログ信号の経路,変調器の次数,変調器内部で使用する量子化器の分解能の検討項目に対し,システムレベルでシミュレーションを行い,Δ∑AD変換器を実現できる各種回路構成方式の性能比較を行った.さらに要素回路の精度要求,回路規模,消費電力の比較検討を行った結果として,フィードフォワード構成で,内部ではマルチビットADCを採用する手法は,高精度かつ低消費電力を実現するために,一番有力な方式である事を確認できた.MATLABによるシミュレーションで検証を行った結果として,Δ∑AD変換器全体回路の実現可能性を確認した.また,Δ∑変調器の内部で使用する増幅回路の低消費電力手法も検討し,一部要素回路の設計を開始し,SPICEシミュレーションによる動作・性能確認を行った.国内学会で要素回路である増幅回路検討結果の報告を行った.また,Δ∑AD変換器内容で使用する量子化器の実現手法を検討し,基本回路方式に関する理論解析を行った.微分量子化器のアーキテクチャと実現回路を考案し,詳細回路設計を開始した.2年目以後の研究を加速できるために,十分な基礎検討の結果を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,新しい微分量子化器を含むΔΣAD変調器の開発と通して, 低消費電力アナログ・デジタル混載LSI の最適化設計手法と設計理論の確立する事を目指している.1年目の回路方式と構成手法の検討結果に踏まえ,今後,詳細の回路設計を行い,シミュレーション及び実際のハードウェア(カスタムLSI チップ) による実験検証でその正当性を検証していく予定.具体的には, (1) 微分量子化器を含むΔΣAD 変調器の詳細設計を行う.トランジスタ・レベルで詳細設計を行い, シミュレーションで動作と性能の確認を行う. スイッチの動作を制御するデジタル回路の論理確認を行い, 特に新規設計する微分量子化器回路の機能,性能と消費電力の確認を行う. (2) ΔΣAD 変調器回路のハードウェア実現に向けて,チップ試作を行う.LSI 試作ためのレイアウト設計を行ない,詳細回路図との照合, 配線の検証, 寄生素子を含んだ回路検証を行う.今まで蓄積した基本回路の設計資産を再利用し, 回路の再設計を最小限にし, 短期間で開発した回路を検証できるように工夫する. LSI試作にあたり,企業の技術者と意見交流は研究協力者の学生にも同席してもらい, 技術情報の共有と学生の能力向上の相乗効果に期待する. (3) 試作したΔΣAD 変調器回路の測定・評価を行う.チップ試作期間中に評価システムを構築し, 測定・評価の準備を行う. 入手した試作チップを測定・評価を行い, 提案回路構成と校正手法の正当性の実験検証を行う. また, 測定結果による解析で, 改善すべき点を明確にし, 研究完成度の向上を目指す.
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