研究課題/領域番号 |
25420346
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坪川 信 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70595975)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / 国際会議講演 / 学術誌掲載 |
研究実績の概要 |
H26年度は主に2つの実績があり、1つは昨年度からの課題解決であり、光ファイバ長手方向の集光特性の平坦化の実現である。従来、1mm径程度の細径光ファイバで構成された集光器においては集光率が長さの拡大に応じて劣化し、1m長程度以上では十分な感度が得られない課題があったが、散乱層構造を長手方向に指数分布化すること等により、5m長程度の長さに亘り、1桁程度内の受光効率の平坦化が実現できた。例えば、この光ファイバを用いて円形の光受信機を構築すると、軸周りに回転させることで周囲方向全360度からの入射光に対する大面積光受信機が形成できることを示した。 もう1つの実績は、ナノサイズの光プローブ構造の提案である。従来、比較的大型の1mm径程度の光ファイバを用いた集光器や光プローブを提案してきたが、逆にナノサイズの微細な光ファイバを用いた新たな光プローブ構造についても検討を進めた。この場合は、側面入射ではなく端面入射相当であるが、特殊な高屈折率差導波路構造を微細な光プローブに適用することで走査型近接場顕微鏡等に用いられる金属針形のナノサイズ光プローブと同等の性能が得られることを示した。スロット導波路と呼ばれる光導波路ではSiのような高屈折率部に挟まれたナノメートルサイズのSiO2のような低屈折なコア部を有しており、中央のコア部に光パワーが効果的に閉じ込められる。この原理を光プローブに適用することで例えば波長(1550nm)の入射光に対して回折限界を超える50~100 nmという微細な光スポットが容易に形成され、さらに受光器機能も光プローブ内に組み込むことでプローブ先端周辺の近接場領域におかれた微小な金属物体が50 nm程度の空間分解能で観測できることをシミュレーション解析により実証した。 以上の成果は学術論文2誌、国内会議1件(予定)で報告される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の課題解決に加え、当初計画からの新たな展開としてナノ領域の導波路構造と利用法の提案、評価が達成できた点から達成度は100%相当と考える。 前半は、前年度からの課題であった光ファイバにおける集光率の長さ特性改善に取り組んだ。手法として、光ファイバクラッド中の散乱部構造と光ファイバの屈折率プロファイルに着目し、散乱部の粒子数密度分布を一定分布から指数関数分布に変化させること、屈折率をステップから2乗分布のグレーデッドに代えることを軸に光線追跡による分析を進め、集光率の比較検討を行ったところ、指数分布の適用により、5m長程度までの光ファイバにおいて長手方向の集光効率を0.1~0.01%程度内で1桁以内の変動に留めることが確認できた。これら結果より、単なる長い直線状の光検出器だけではなく、光ファイバを円形状に構成し、その円を回転させることで周囲360度の全方位に対する直径3m程度の大型の光検出器が実現できることまでを示した。 後半は、これまでのマクロな捉え方ではなく、散乱、回折等のミクロな導波路構造に起因した集光特性の分析を進め、一部実験検証に着手する予定であったが、ミクロな分析を進める過程でナノサイズ領域における興味深い導波路構造のアイデアが得られたため、光プローブに応用する光ナノ導波路構造を主に検討した。これは走査型近接場顕微鏡などに適用される技術の1つである。具体的にはナノサイズコアを有する誘電体スロット導波路構造を光プローブに適用することで、通常のメタルコートの光プローブと同等以上の伝達効率を持ち、従来構造に比べて極めて簡易な構造にもかかわらず50 nm程度の空間分解能が達成できることがFDTD法のシミュレーションにより確認出来た。 得られた結果は予定通り学術雑誌に投稿し採録済みである。
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今後の研究の推進方策 |
これまで光ファイバ型集光器の提案として散乱層を備えた構造の提案を行い、長さ特性改善にむけた屈折率分布や散乱層の配置法などについて検討を重ねてきた。H27年度はセンサや照明応用の観点から、ウェアラブルな織物への利用を想定した評価を1つの課題とする予定である。具体的には織物のように編みこまれた形状において側方入射光を集光するための形状を探し出すために、通常の導波路パラメータに加え、ランダム曲がりや捻りなど外形パラメータに対する集光特性を検討する。周囲光に対する指向性や感度を評価することで新たなセンサ利用の可能性を提案することを目標とする。解析には従来同様に光線追跡法、FDTD法、ビーム伝搬法などのシュミレーションソフトウェアを利用し種々のモデルに対する光伝搬特性を評価する。 もう1つの研究の方向性として、昨年度後半に取り組んだナノサイズ導波路における光波伝搬特性の解明がある。この領域では興味深い現象が数多く提案され、また多くのアプリケーションが期待されることで昨今注目を集めている。今年度は、昨年度対案した誘電体スロット導波路の新たな利用の拡張に加え、類似構造を有するプラズモニック導波路との相互接続性、導波路パラメータや材料の違いによる伝搬特性、光閉じ込め特性の分析を進め、光ナノ集積回路への応用に向けた新たなデバイス提案を行うことを目標とする。また、同じく注目されているクラッドレス光ファイバ(ナノワイヤ)についても微小光デバイス間のインタコネクション用途への可能性などを目指し、波長以下のサイズの曲げでの伝搬特性、光電界分布、複数導波路間のエバネセント結合特性などの基本評価の評価を計画する。上記同様、主に計算機シミュレーションにより解析を行う。 以上、主に2つの方向性を持って研究を進め、得られた成果は国内外の主要学術誌もしくは国際会議に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入物品の価格の変動と旅費等の実費の差により、僅かであるが次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
今期も、前年度同様に主に解析用ソフトウェア(年間ライセンス服務)の購入に使用し、その他は成果発表としての学会講演の出張旅費に充てる予定である。
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