研究課題/領域番号 |
25420350
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
馬渡 康徳 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 上級主任研究員 (70358068)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導 / 検出器 / シミュレーション / 時間依存Ginzburg-Landau方程式 / テラヘルツ電磁波発振器 |
研究実績の概要 |
超伝導ストリップを用いた分子イオン検出器の動作を再現するための数値シミュレーション手法の開発を進めた.超伝導ストリップに分子イオンが衝突して局所的に常伝導転移する過程を再現するために,時間依存 Ginzburg-Landau (TDGL) 方程式と熱拡散方程式を基にして,また検出器の回路構成を再現する回路方程式も連立して数値的に解き,検出器動作(特に出力電圧波形)を再現する理論シミュレーションを行った. 研究協力者は MgB2 超伝導ストリップを用いた分子イオン検出器を開発しており,その出力電圧波形の実験データと本研究のシミュレーション結果を比較したところ,両者は定量的に一致することを確認した.検出器動作を再現する数値解析手法を確立しただけでなく,超伝導ストリップが常伝導転移する際の物理現象に関する詳細な情報も明らかになった. 研究協力者は従来 Nb を用いた検出器を開発していたが,MgB2 は Nb に比べて臨界温度が高いために検出器の冷凍機の小型化が可能となるのみならず,MgB2 は熱的に極めて安定であるために検出効率を高くすることができる.これら大きな長所をもつ MgB2 検出器の開発と上記シミュレーション結果を論文(研究協力者が筆頭)にまとめ,Applied Physics Letters 誌に平成27年5月に掲載予定となった.さらに,プレス発表も準備中である. 検出器以外のデバイスも検討した.穴を空けた超伝導ストリップに直流電流を流したときに,その穴に捕捉された量子化磁束がコヒーレント振動する自励発振現象を,数値解析により見出した.この現象についても検出器シミュレーションと同様に TDGL 方程式を基に数値解析を進め,新原理に基づくテラヘルツ帯電磁波発振器としての可能性について理論検討を行い,電磁波発振器として特許出願を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MgB2 超伝導ストリップを用いた分子イオン検出器の電圧波形の実験データを,本研究の数値シミュレーションにより定量的に再現することに成功し,検出器のシミュレーション手法を確立することができ,おおむね順調に研究が進展している.さらに,穴の空いた超伝導ストリップにおける自励発振現象を同様のシミュレーションにより見出し,新原理のテラヘルツ電磁波発振器として特許出願したことは,予定を超えた成果である.
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今後の研究の推進方策 |
超伝導ストリップによる分子イオン検出器の動作を定量的に再現するシミュレーション手法が確立したので,最終年度は,検出器を最適化・高性能化するための方法を検討する.当検出器の最大の問題点は,検出面積を大きくするために超伝導ストリップを長くすると,インダクタンスが大きくなって動作速度が遅く(計数率が低く)なってしまうことである.そこで,本研究で開発した数値シミュレーションを駆使し,動作速度の低下を抑えながら検出面積を拡大する手法を考案して数値シミュレーションにより検証し,検出器を高性能化する新方式の理論的提言を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度となる次年度 H27 では,本研究で得られた成果を積極的に発信していく.次年度は当初計画以上に積極的に学会発表を行う予定となり,そのため学会参加費および旅費の増加に備えた.
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次年度使用額の使用計画 |
主として2件の国際会議(12th European Conference on Applied Superconductivity および 15th International Superconducting Electronics Conference, Nagoya)のための,学会参加費および旅費に使用する予定である.
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