本研究の目的は,医療ICT技術に適用する人体に近接した無線センサーデバイスの無線性能評価を,人体の動的変化と室内多重波伝搬環境の影響を同時に考慮して行うことができる評価装置を開発することである.評価装置を開発する際の課題は,(1)振幅・位相制御回路を具備した装置の開発,(2)室内多重波伝搬環境を作り出すための生成アルゴリズムを開発,(3)実用状態で起こる多重波伝搬の影響を考慮したBANアンテナの開発であり,これらの課題のうち平成27年度は(3)について研究を遂行した. (3)に関しては,平成26年度の研究成果により,頭・腰・足など人体の様々な部位に装着されたBANセンサーアンテナと腕に装着したアクセスポイント間の通信に関して,腕振り歩行動作によって到来する電波の偏波特性が大きく異なることを明らかにした.所属研究室では移動通信において到来波の平均交差偏波電力比(XPR : Cross Polarization Power Ratio)とアンテナ傾き角に応じて最適な受信信号を得ることができる偏波制御アンテナを提案している.この偏波制御アンテナをOn-Body通信に適用することを試みた. 平成27年度はセンサーアンテナの設置位置を変化させた時,腕装着端末における受信レベルの安定化について検討した.まず,BAN On-body通信における受信信号の垂直偏波と水平偏波の割合を知る必要がある.そこで,人体近傍交差偏波電力比BP-XPR (Body Proximity Cross-Polarization Power Ratio) を定義し,それぞれのOn-Bodyアンテナ間位置関係と人体歩行動作を考慮して定量化を行った.提案するBP-XPRを腕装着端末の偏波制御アンテナに適用することで,動的人体チャンネルにおいてBAN On-Bodyリンクが向上することを明らかにした.これらの研究内容については学会で口頭発表を行った.今後は論文にまとめて報告する予定である.
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