研究課題/領域番号 |
25420365
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研究機関 | 公益財団法人名古屋産業科学研究所 |
研究代表者 |
田坂 修二 公益財団法人名古屋産業科学研究所, その他部局等, 研究員 (80110261)
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研究分担者 |
布目 敏郎 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10345944)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マルチメディア / QoE / ユーザ体感品質 / QoS / 数理統計モデル / インターネット高度化 / 情報通信工学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ユーザ体感品質(Quality of Experience: QoE)への影響要因を定量的に明確化し,その結果に基づいてQoE向上を可能にする基礎技術を確立することである.この目的を達成するための今後の推進方策として,昨年度の実施状況報告書では,交付申請書に記載の実験的方法論(ユーザ援用型QoE向上方式を使用した実験を中心)に加えて,“QoEの数理統計モデルの構築”を掲げた.これら2種類の方策によって,本年度は,次の研究成果(5編の論文)が得られた. 実験的方法論によるユーザ援用型QoE向上方式の成果は,3編の論文として発表された.まず,この方式の概念を一般化して提案し,インタラクティブ音声・ビデオ通信実験でその有効性を示した.次に,音声・ビデオ・力覚インタラクティブ通信において,QoS制御による方式(ユーザ援用型QoS制御)を含めた4方式の主観評価実験を行い,作業内容やユーザ属性がQoEに及ぼす影響や最も好まれるQoS制御方式のそれらへの依存性を明らかにした.更に,QoEベースビデオ出力方式SCSについて,閾値選択インタフェースによるユーザ援用型QoE向上の2方式(2モード方式,4モード方式)の主観評価実験を行い,従来の単純なフレームスキップまたは誤り補償よりも高いQoEを達成することを示した. 実験的方法論による別の研究として,多視点ビデオ・音声(MVV-A)通信の多次元QoEリアルタイム推定方式の提案と有効性実証実験を行った.多様な使用環境において重回帰式によるQoE推定を可能にするために,使用状況タイプ(usage-situation type)の概念を導入し,代表回帰式を算出した. QoEの数理統計モデルとして,前述のユーザ援用型QoE向上インタラクティブ音声・ビデオ通信に対するベイズ階層化モデルを構築し,QoE定量化研究の新しい方向を拓いた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究目的」に対しては,本年度までは十分に目的を達成していると考えている.しかし,平成25年度の研究実施状況を踏まえて,今年度研究の具体的な実施方法は,交付申請書の「平成26年度の研究実施計画」とは幾分異なったものとなった. すなわち,交付申請書では,音声・ビデオ・力覚インタラクティブ通信に焦点を絞り,QoE向上基礎技術の確立を狙う計画であった.実施した研究においても,この課題については,前述の“研究実績の概要”に記したような成果が得られている.そのため,当初の基本的な目標は達成されている.そこで,本年度はこの課題を更に深く検討する代わりに,MVV-A通信の多次元QoEリアルタイム推定方式とQoEベイズ階層モデルの構築の研究を行った.これら2種類の課題は交付申請書には記載していないものであるが,“QoEへの影響要因の定量的明確化とそれに基づくQoE向上基礎技術の確立”という研究目的に,より適うものと判断した. このように,音声・ビデオ・力覚インタラクティブ通信については当初目標に比べて限定的な成果であるが,MVV-A通信とQoEベイズ階層モデルという新たな分野の研究を行い当初計画以上の成果が得られている.総合して,研究目的の達成度に関しては,おおむね順調に進展しているとの判断を行った.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は本研究の最終年度であるので,これまでの研究を更に進展させて取りまとめを行うとともに,研究の次の段階における課題を洗い出す. 推進方策は,平成26年度に引き続き,実験的方法論によるユーザ援用型QoE向上技術の研究と,QoE数理統計モデルの構築との二本立てとする.実験的方法論により,音声・ビデオ・力覚インタラクティブ通信と音声・ビデオ通信の研究の進展と拡張を目指す.数理統計モデルとしては,平成26年度に提案したベイズ階層モデルの詳細検証と改善を図る. 数理統計モデルによるQoE定量化理論の構築は,状況適応型QoE向上基礎技術の確立という最終目標に向かう必須のステップである.この観点から,本研究の次の段階における課題を探索し,問題設定ができるように試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
音声・ビデオ・力覚インタラクティブ通信に関して,平成26年度では基本的な主観評価実験は行ったが,多数の被験者による大規模実験は行わなかった.結果として,多数の被験者への謝金と実験実施協力の人件費とを使用しなかった.これは,平成26年度の研究推進方策として,実験的方法論に加えてQoE数理統計モデルの構築を取り上げることにより,実験実証と基礎理論確立とのバランスが取れた研究進展を図ったためである.平成25年度の研究実施による経験から,状況適応型QoE向上基礎技術確立の適切なプロセスには,このような実験と理論との両輪が必要であると考えた. また,平成26年度に得られた成果のうち,現在論文としてまとめているものもある.それらの発表のための出張旅費も繰り越すこととなった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に得られた成果を,まず,国際会議で発表するための旅費として使用する.現時点で採択が確定しているのは,平成27年6月にロンドンで開催されるIEEE International Conference on Communications (ICC2015)への投稿論文である.他にも国際会議への投稿を計画している.同様に,国内学会での成果発表の旅費としても使用する. 更に,平成27年度は研究の取りまとめのため,音声・ビデオ・力覚インタラクティブ通信等の主観評価実験を行い,謝金/人件費を支払う.
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