ITS車車間通信環境における伝搬損失は道路方向の送受信点間距離を用いてほぼ一意に表すことが可能である。これに対して、道路幅方向の送受信点位置変位は、その影響は比較的小さいものの、状況によっては無視できない。これについて、見通し内環境および直交交差点環境(交差点を一回通過する環境)を対象として、道路幅および道路方向道路方向距離などの道路パラメータが与えられた際に、道路幅方向の送受信点変位が伝搬損失変動に与える影響の大きさを定量化した。具体的には、伝搬損失変動を道路幅方向送受信点位置変化に対する伝搬損失変化の標準偏差を用いて指標化し、その値を道路パラメータを変数とする関数により定量化する表現を求めた。 また、本研究の目的となる伝搬損失そのものを道路パラメータにより簡易に計算可能とする簡易推定式の検討を進めた。これまで、レイトレーシング計算を簡易化することによりこの簡易推定式の構築を行ってきたが二次元環境を前提としていた。これを実際の通信環境である三次元環境へ拡張した。いわゆる大地反射二波モデルの考え方を二次元環境の簡易推定式の各パスに適用することにより簡易な方法で三次元に対応させた。この簡易推定式による伝搬損失の推定結果を、二次元および三次元のレイトレーシング結果、さらには、実験などに基づいて構築された伝搬損失推定式による推定結果と比較し、本研究で構築した簡易推定式により精度の高いITS車車間通信環境における伝搬損失推定が可能であることを示した。 このような平均伝搬損失推定においては、フェージングの影響の除去が課題となる。これに対して反射板を回転させることなどにより個々のマルチパスを変動させて人為的なフェージング変動を発生させ、その平均電力を求めることにより平均伝搬損失推定の測定精度を改善する方式を検討し、その特性を評価した。
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