非常に長いソレノイドコイルの内側には磁場が存在するが、外側には磁場はほとんど存在しない。外側に磁場が無くても、ベクトルポテンシャルは電流と平行に存在する。そこで、長いコイルをさらに円筒に巻きつけた二重コイル(コイルのコイル)の構造にすれば、外側に有ったベクトルポテンシャルを重ねあわせて、直線状のベクトルポテンシャルを生成できるはずである。 まずフレキシブルな非常に長いソレノイドコイルを作製した。これは単芯線の周りに細い導線を巻きつけた構造となっており、見た目はギターの弦とよく似ている。そしてそれを円筒に巻きつけたベクトルポテンシャルコイル(VPC)を作製した。ここで単芯線と周りの細い導線は一方の端部で短絡されており、電流が短絡された端部で折り返されて戻ってくるようにしている。この構造が不要な磁場を発生させないために重要である。 VPCの中に直線状の二次導線を配置したところ、二次導体とベクトルポテンシャルの空間的な内積と、電流の時間微分に比例した二次電圧が発生した。さらに、VPCと二次導線の間に、表示深さよりも十分に厚い導体を挿入して電磁シールドしても、シールド無しの時と同じ二次電圧が発生した。コイルの共振周波数を過ぎてもシールド無しの時と同じ特性であった。さらに、シールドを第二種超伝導体に変えた場合でも同様であり、ベクトルポテンシャルを使うと電磁シールドを透過して一次と二次を結合できることを見出した。このベクトルポテンシャルは回転がないので、磁場は発生しない。ベクトルポテンシャルコイルの中に磁場が発生していないことは、光ポンピング原子磁力計で確認した。 このように、ベクトルポテンシャルコイルにより、遮蔽環境下でも電気的な信号伝達が可能であるので、通信、非破壊検査、医療診断などに応用展開されることが期待される。
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