研究実績の概要 |
前年度は、ESD法によるポリマ薄膜作成を行うために,電圧,対向電極間距離などの適切なパラメータを探り,その結果をもとにして,ESD法による膨潤性ポリマクラッド型POFガスセンサの作成をおこなった.平成27年度は,前年度に引き続き,POFセンサの作成とガスセンサとしての基本的特性評価を行うと共に,中間電極を用いたESD法の適用により,より製膜性の良い膨潤性ポリマ薄膜を形成し高感度なセンサの実現を目指した. 【ESD法によるポリマ薄膜作成】 ESD法は帯電による溶液液滴内部の反発力を利用して,ナノオーダーの液滴を生成する方法である.液滴は強く帯電しているために導電性がないPOFなどには,帯電による静電気反発力によって薄膜形成に支障がある.昨年度までは電圧やキャピラリーと対向電極間距離を調整することを行うことで解決を図った.本年度は,キャピラリーと対向電極間にスプレーを透過する穴を持つ中間電極を設置することにより,POFなどのポリマ基板の帯電をおさえ,ポリマ薄膜製成の改善を目指した.中間電極は,対向電極の上方1cmから2cmのところに設置し,およそ1KVの電圧をかける.中間電極がない場合に比べて対向電極上の基板の電界は弱くなり帯電が抑えられた。さらに電界方向がほぼ基板に垂直になることにより静電スプレーが安定したため,作成したポリマ薄膜の改善が見られた.しかし,まだパラメータの調整が不十分であり,さらに検討を加える必要がある. 【ESD法による膨潤性ポリマクラッド型POFガスセンサの作成と基本的特性評価】 上記の結果をもとに,直径0.5mmのプラスチック光ファイバ(POF)上に,ESD法による膨潤性ポリマクラッドのコーティングを試みた. 昨年度に比べて膨潤性ポリマのコーティングが容易になり,安定してPOFセンサの作成が行えた.作成したPOFセンサのヘキサン飽和蒸気に対する応答を調べたところ,昨年度までに作成されたPOFセンサにくらべて,感度の向上が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,中間電極を用いたエレクトロスプレー装置に成膜装置を改良することにより静電スプレーの飛び方を均一にすることができるようになったため,POFに対して昨年度に比べると安定して薄膜形成ができるようになった。そのために,昨年度は,ポリマ基板への膨潤性薄膜形成に関しては,静電気反発力が予想以上に大きく,特に膜厚が1μm以上の均一な薄膜形成が困難であったが,改善が進んでいる. 一方,膨潤性ポリマに低屈折率ポリマであるPVDFを混合したブレンドポリマのESD製膜実験は今年度も行うことができなかった.しかしながら,来年度に向けての計画実施の目途が立ちつつある. 以上を鑑み,本年度の研究目的および計画はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き,中間電極を持つESD法によるポリマ薄膜作成の方法を検討を行うと共に,ESD法による膨潤性ポリマクラッド型POFガスセンサの作成と基本的特性評価を継続する. また,POFへのESD法による薄膜形成は,ファイバ中心を軸にして回転させながらファイバ側面に膨潤性ポリマクラッドを堆積させる必要があるが,未だ実現できていない.そこでESD製膜装置に光ファイバ回転装置を作成して加えることを検討する.さらに,昨年度および本年度行えなかった低屈折率ポリマとのブレンドポリマによるESD薄膜の作製に取り組む. さらに,帯電の防止をさらに改善するため,スプレー溶液にイオン液体を混入することを検討する。これらの方法を用いて膨潤性ポリマクラッド型POFを作成し,そのガスセンサとしての基本的特性を測定する. 本年度まで,提案センサの基本特性の測定は飽和ヘキサン上記で行ってきたが,来年度は次のように行う. 1.本年度用いた実験系を用いて,センサヘッドの感度,応答特性を測定する. 2.対象ガスの濃度の調整は,真空にしたチャンバーに液相の検出対象から作成した飽和蒸気もしくはプロパンガスを窒素で希釈することによって行う.なお,基本的測定なので対象ガスは高い濃度で測定し,ディップコーティング法で作成したPOFセンサと比較検討を行う.3.クラッド層の厚さ,センサヘッドの直径,長さなどをパラメータとして感度,応答特性の測定を行う.4.POFの端面を研磨してD型ファイバとすることで,POF を回転すること無くクラッドポリマを堆積できる.このD型POFファイバを作製し.円筒ファイバとの比較を行う.
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