研究課題/領域番号 |
25420412
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
内田 諭 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (90305417)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 計測システム / 誘電泳動 / パルス電界 / 細胞動態 / 診断 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、パルス電界処理による細胞動態の変化を細胞電気定数から定量的に検証するとともに、マイクロ電極間に泳動濃縮された菌体群のインピーダンス値から細胞動態を迅速に把握できる診断システムを構築することである。 期間内において、(1)パルス幅に対する酵母細胞の活性および不活性領域(通常、膜損傷、アポトーシス誘導、生育促進)を蛍光染色により特定する、(2)誘電泳動速度計測から上記に示した4状態の酵母細胞に対する電気定数を導出する、(3)インピーダンス変化と膜損傷率・細胞増殖速度との相関を誘電泳動周波数ごとにマッピングし、各細胞動態に対応した特異点を選定する、(4)上記データからインピーダンスに対する診断用の検量線を作成する、(5)複数電極リアクタを導入して、泳動診断システムを構築する、(6)パルス条件の違いによる検出応答からリアクタ構造や検量線の妥当性を検証する計画である。 昨年度は予備的な研究期間と位置付けた研究を行っている。具体的には各処理条件において核酸染色による蛍光色度変化から膜損傷度を導出した。また、加熱とパルス電界印加による閾値の違いを特定した。さらに、処理条件の異なる酵母細胞の泳動速度を計測し、等価電気回路モデルから電気定数変化を定量的に示した。 以上の結果を踏まえ、本年度(平成26年度)は、簡易診断の基盤としてインピーダンス応答を計測し、細胞動態との定量的な相関を検証した。すなわち、【課題1 インピーダンス応答と膜損傷率・細胞増殖速度との定量相関】の具体的な成果として、等価回路解析との比較からインピーダンス変化量と捕集菌量の定量的関係をより明確にした。また、損傷酵母の遺伝子発現を検出し、生物学的変位の判断指標を補強した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【課題1 インピーダンス応答と膜損傷率・細胞増殖速度との定量相関】において、初めにパルス電界処理用マイクロセル内の等価回路モデルを検証した。容量及び抵抗の直並列回路を仮定し、実験結果との比較から電気定数パラメータのフィッテングを行った。次に損傷酵母の電極間橋絡時における等価回路にモデルを拡張し、各周波数におけるインピーダンス変化量との比較を行った。結果として、本モデルによりインピーダンス変化の定性的な傾向を示すことができた。ただし、駆動周波数によっては実測値と定量的に異なる値を示した。そのため、等価回路の設定に関しては、次年度以降も引き続き精査していく必要がある。 また、生物学的変位の定量性を具体的に示すことができるように、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による遺伝子解析を行った。核酸蛍光染色だけでは十分に考慮できなかった、グルタチオン合成に寄与する遺伝子発現のひとつがナノパルス印加時にのみ検出された。ゆえに、本遺伝子発現はインピーダンス変化と密接に関連していることが示唆された。本結果の一部は国内会議(電気学会全国大会)にて発表しており(13. 研究発表の項を参照)、論文投稿のための準備を進めている。 以上より、本年度の研究においては当基金を有効に活用し、到達目標を概ね達成できていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、これまでの結果を踏まえ、迅速かつ簡便な細胞動態の泳動診断システムを構築する。 (1)診断用検量線の作成およびリアクタの改良 前年度の各相関データを基に4動態(通常、膜損傷、アポトーシス誘導、生育促進)のインピーダンス検量線を作成する。また、複数周波数で同時計測が可能な電極配置にリアクタを改良する。同時にパルス印加と泳動計測のユニットを一体化して集積細胞数を増加させ、検出速度および感度の向上を図る。 (2)診断システムの性能評価 電圧振幅、周期、パルス回数などパルス条件の違いによる検出応答を比較し、本診断システムにおける検量線およびリアクタ構造の妥当性を検証する。
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