研究課題/領域番号 |
25420421
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
新川 拓也 大阪電気通信大学, 医療福祉工学部, 教授 (50340641)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 哺乳 / 乳児 / 舌運動 / 計測 |
研究概要 |
わが国の出生数103万人(2013年)のうち,約10%が出生体重2500g未満の低出生体重児であり,増加の一途をたどっている.低出生体重児は,母乳や人工乳を哺乳する「哺乳行動」に課題を抱えている割合が多く,健やかな成長の妨げとなるほか,時には生命の維持にも関わる.このような背景から,哺乳行動の詳細を解明することが急務であるが,実際は不明な点が多い. 2013年度における課題では,乳児が哺乳時において乳首を吸啜する動作に着目し,舌が人工乳首の表面に接触する部位に多数の力センサを設けた人工乳首を開発して,舌が人工乳首に与える力をマルチポイントで時系列的に計測できるセンサシステムを構築することを目的とした.本システムは,正六角柱の3つの側面に力センサを縦列に2個ずつ配置し,合計6個の力センサを内蔵したセンサユニットにエラストマ製の中空の人工乳首を装着して構成されている.センサの静特性について,0Nから3.92Nまで0.49Nずつ加重し,続いて0Nまで0.49Nずつ荷重を減じた際の出力電圧を計測した結果,ヒステリシスは0.12%~2.83%であった.また,動特性について,1つの力センサの伝達ブロックに3.92Nの荷重を加え,それを瞬時に取り除いた際の応答時間を計測することで評価した結果,出力最大電圧の90%から10%に達するまでの時間は,0.5ms~1.8msであった.これらより,本システムは計測に十分な性能を有していることを確認した. 正期産児3名に対して計測を行った結果,1)各センサからの力の信号を得たこと,2)吸啜周期が推定可能であったこと,3)舌は乳首下部に主たる力を与えていることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度における課題では,片持ち梁形式の小型力センサを多点に内蔵し,乳首表面にかかる力を立体的に捉えることができる人工乳首を開発して,乳児が哺乳時において乳首の「どの部位に」「どの程度の力をかけているか」を計測可能なシステムを構築することであった.本システムの特徴は,片持ち梁構造の小型力センサをステンレス製六角柱側面に2個ずつ配置していることから舌の運動を立体的に計測できる点にある.センサについて,静特性および動特性の評価結果から,計測に十分な性能を有していることが確認された.さらに信号処理系においては,サンプリング周波数1kHz,量子化ビット数12bitであり,さらにUSB接続で簡便な構成となっている.計測においては臨床現場で行うことが主となるため,機動性が必要であるが,PCベースでコンパクトであり,要求される仕様を満たすシステムを構築することが出来た. 本システムで正期産児に対して試験計測を行った結果,舌が乳首に与える主たる力は,乳首下部からのものであることが新たな知見として得られた.この結果は査読付き学術論文として電気学会論文誌に掲載された.したがって,システムの開発,評価およびその成果発表を成し得たことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2013年度における課題では,計測システムの構築と評価であった.本課題はおおむね計画通り進展した.次年度以降,計測に必要なシステムを量産する計画をたてている.また,システムの構築と平行して,乳首下部からの力を主に計測するために,平板に6個の小型力センサを配置した計測システムを用いて吸啜に問題を抱える児に対する舌運動計測を試みた.その結果,乳首先端部の力に有意な差があることが判明した.この成果は,35th Annual International Conference of the IEEE EMBSにて発表し,好評を得た.本成果から,正常な吸啜との差がある箇所に集中的にセンサを配置することも検討している. 具体的には,正六角柱を用いた計測システムの量産を行い,正期産児と吸啜に問題を抱える児にどのような差異があるかを被験児数を増やして検討し,特徴点を推定した上で計測箇所を定める.その後,1~4チャンネル程度のセンサマトリックスを構築して,力の分布を計測し,舌運動の推定を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度において,計測システムの複数構築を目指しており,A/D変換器を2セット用意する予定であったが,より安価なものに切り替えた.なお,当初予定の性能を下回ることにはなっておらず研究に支障をきたすことにはなっていない.さらに,小型力センサの試験製作を行うために,汎用歪ゲージの大量購入を計画していたが,製作効率が向上したため,予定の購入数に至らなかった.また,旅費の件では,国際会議の出席について本務校の業務の都合により宿泊に至らず,会期中は常に会議終了後には本務校に戻っていたため利用していない. 次年度において,計測システム量産のためのベースPCおよびA/D変換器の購入に当てる予定である.
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