研究課題/領域番号 |
25420421
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
新川 拓也 大阪電気通信大学, 医療福祉工学部, 教授 (50340641)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 哺乳 / 乳児 / 舌運動 / 計測 |
研究実績の概要 |
乳児は,原始反射の一つである吸啜反射により,出生後まもなくから母親の乳首を口腔内に取り込み,乳汁を摂取することが可能となる.しかし,母親の乳首から直接乳汁を摂取することが困難な乳児について,吸啜不良の原因は明らかにされていない点が多い.本研究では,舌と乳首の接触力を直接計測することでした舌運動の推定を試み,吸啜良好・不良それぞれの特徴を抽出することを目標としている. 現在までに,舌が人工乳首の表面に接触する部位に多数の力センサを三次元的に設置した人工乳首を開発し,舌が人工乳首に与える力をマルチポイントで時系列的に計測できるセンサシステムを構築することに成功した.その結果,舌が乳首を包み込むように支え,蠕動運動を行うことが明らかとなった.さらに,主たる力は上顎に対して垂直方向にかかることが判明した. 2015年度においては,より詳細な舌運動の解析を行うために,舌が蠕動する際に生じる隆起部の移動速度について検討した.具体的には,縦3mm,横10mm,厚さ0.3mmのステンレス薄板を梁とした片持ち梁構造の力センサを3つ,縦12mm,横70mm,厚さ3mmのステンレス板に縦列に配置し,中空エラストマー製の人工乳首を装着してセンサユニットを構築し,乳児の口腔内に挿入して舌-人工乳首の接触力を計測した.被験児は,経口哺乳が確立している乳児2名と,経口哺乳が確立していないため経管栄養を併用している乳児2名である.計測の結果,前者においては隆起部の移動速度が等速傾向にあり比較的遅く,後者においては減速傾向にあり速かった.特に後者では,各センサに接触するタイミングがほぼ同じで,乳首全体を舌で押し込むような動きであることが推定された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究において,1)小型力センサを複数かつ立体的に中空人工乳首の内部に配置して,舌-人工乳首の接触力を多点で時系列的に計測できるセンサシステムを構築したこと,2)1)を用いて健常児に対する計測を試みたところ,上顎に対して垂直方向に大きな力が加わることが判明したこと,3)臨床においても効率よく計測体制を整えることができるよう,力センサの堅牢性の確保と力点変異の防止が可能な,圧力変換器の感圧点にステンレス鋼球を接触させるタイプのセンサ部を開発し,それを哺乳瓶型筐体にパッケージングした計測器を開発したこと,4)これらのセンサシステムを用いて健常児および吸啜不良を示す児に対して計測を行ったところ,舌の蠕動様運動に明らかな差が生じていることが明らかとなった. これらの成果について,本年度は特に4)を中心に,電気学会論文誌に査読付き学術論文として投稿,採録されたほか,平成27年電気関係学会関西連合大会においても発表し,システムの開発,評価,さまざまな乳児に対する計測と考察に関する研究成果発表を成し得たところから,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では,多点による舌-人工乳首接触力の直接的時系列計測と吸啜良好・不良の診断ポイントの探査を基幹として研究を遂行している.本年度は,特に上顎と垂直な方向に対する力の計測に焦点をしぼり,舌が蠕動する際に生じる隆起部の移動速度について考察した.その結果,経口哺乳が確立している乳児とそうでない乳児については異なる結果が示され,計測と評価の要点が明らかになってきた.ただし,舌の運動様態と実際に乳児が持つ哺乳能力との関係性は明らかになっていない.これを解明するためには,同じ乳児について経時的に計測と評価を繰り返す必要がある. 次年度以降については,これらを踏まえ,乳汁の摂取量と舌運動の関連について,現在までに取得したデータから統計的手法を用いて解析を試みる.同時に,長期計測可能な被験児確保に努める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の開始時点において,2015年度の研究計画では吸啜の良好・不良の診断ポイントについてInternational Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC’15 in Milan)において国際会議の発表を行う予定であったが,本務校の都合により本会議出席を中止し,代わりに国内における学会発表に切り替えた.さらに,信号処理部の変更において,新たなPCが必要となったため,予定の予算との差額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度について,38th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC’16 in Orlando)における発表の投稿にかかわる文献調査費等に使用する予定である.さらに,計測系を組込みシステムに加工する際に必要となるハードウェア部材,PCの購入も検討する.
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