母乳や人工乳を摂取する包括的な動きである哺乳行動において,その口腔内における運動については依然不明な点が多く存在する.哺乳時における口腔運動の計測は,主として口腔内をカメラで観測する「透明人工乳首使用法」や超音波断層像を用いた視認によるものであり,その結果から,乳首を吸啜(吸いつく動作)する際には舌が主体的に働くことが判明した.ただし,乳汁を圧出するために必要な「舌が乳首に与える力学的作用」は以前不明のままであった.本研究では,哺乳行動に関する臨床を支援するために,吸啜時における舌が乳首に与える力のリアルタイム計測システムの開発に始まり,新生児(健常児、早産児等)を対象とした計測および異常吸啜検出アルゴリズムの構築に至るまでを目的としている.本研究で得られた成果は次の通りである. 1)片持ち梁形式の小型力センサを多点に内蔵し,乳首表面にかかる力を立体的に計測できる人工乳首を開発した.具体的には,ステンレス製六角柱側面に2個ずつセンサを配置したユニットにエラストマ製中空人工乳首で被覆し,それを乳児に咥えさせることによって舌が乳首に与える力をリアルタイムに計測する.本システムによって,吸啜時,乳首下部から上顎に向けて主たる力が加わっていること,吸啜は1秒間に2回程度行われていることが明らかとなった. 2)乳首下部から上顎に向けて与える力の計測結果から舌運動の解析を試みた結果,経口哺乳が確立した乳児では舌の蠕動様運動が見られる一方,確立していない乳児では見られない傾向を発見した.舌と乳首の接触力の違いに大きな差はなかった. 3)乳児の吸啜状況をモニタリングできるPCベースのシステム,基板組み込み式の哺乳瓶型システム,玩具適用型システムをそれぞれ構築した.
|