研究課題/領域番号 |
25420430
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
畑中 健志 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (10452012)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 制御理論 / ゲーム理論 / 協調制御 / ビジュアルセンサネットワーク / 能動センシング |
研究実績の概要 |
本申請課題は,通信・計算機能を有する複数カメラをネットワーク化することで構成されるビジュアルセンサネットワークを対象に,ゲーム理論的学習理論に基づいて,各カメラの位置・姿勢・ズームというパラメータを最適決定する分散協調型の能動センシング手法を提案することを目的とする. まず,本年度は昨年度提案したゲーム理論的学習アルゴリズムを発展させ,新たなアルゴリズムを提案し,環境の事前情報を用いることなく,最適なパラメータが任意に高確率で達成できることを理論的に証明した.本結果は国際論文誌に投稿し,掲載された.さらに,実験面では,昨年度構築した屋外実験システムでは再現性が担保されないという問題があったため,環境変化をスクリーンに投影することでこれを実現する室内実験システムを構築した.このシステムを用いて土砂崩れによる自然環境の変化および気象のモニタリングに提案アルゴリズムを適用し,昨年度よりも精緻な解析結果を得た.この結果は現在国際学術雑誌に投稿中である. 他方,昨年度着想した行列多様体上の最適化理論に基づく手法をさらに発展させるとともに,当該分野における最高峰の学会である2014 American Control Conferenceで発表し,インパクトを与えることに成功した.また,人間集団の運動をモニタリングするシナリオを想定し,コンピュータビジョンのアルゴリズムと提案した最適化手法の融合を実現し,それを実装する全体システムを構築した.さらに,本システムを用いた検証実験を実施し,提案手法の有効性を示した.本結果は2015 American Control Conferenceに投稿し,このほど採録が決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定したゲーム理論的学習アルゴリズムの提案に関しては,当初の予定を上回り,単一ではなく複数の新規アルゴリズムの提案とその収束性の証明に成功した.また,その実験検証に関しても当初予定したシステムは初年度に完成し,本年度はさらに当初は想定しなかった環境の再現性を担保するシステムの構築とそのシステムを用いたアルゴリズムの検証に成功した.また,申請段階には着想すらしていなかった多様体上の最適化理論に基づくモニタリング手法を着想・開発し,そのアルゴリズムの有効性を理論的にしますことに成功した.これにより想定シナリオも比較的環境変化の遅い自然環境のモニタリングから,人間行動の監視などの早い環境変化を含む形でスケールアップした.さらに,本モニタリングアルゴリズムを実装する実験システム構築に成功し,本年度までに検証までを終えることができた.ここでは,環境中の人間行動箇所を検出するコンピュータビジョンのアルゴリズムや関数近似を実現する機械学習のアルゴリズムと提案した制御アルゴリズムの統合にも成功している.最後に,ここまでの内容で,既に学術論文2本と当該分野における最難関の国際会議に論文が3件採録され,国際雑誌論文への投稿を終えた.以上から,現在までの達成度は当初の計画以上の進展を見せていると結論付ける. ただし,当初の予定通り進展していない部分も存在する.具体的には,初年度に計画したゲーム理論的学習に基づく分散協調推定アルゴリズムの開発は,学習アルゴリズムの収束の遅さゆえに適用対象が限定されるという問題に直面し,別のソリューションの開発に取り組むこととした.具体的には,合意プロトコルと呼ばれる協調制御手法を用いて,非線形システムの集合値オブザーバを分散協調化するアイデアを着想した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる次年度は以下の課題に取り組む予定である. まず,現状のモニタリング手法は変数に離散化を施すことに起因して,チューニングすべきパラメータ数が多くなり,これが実際のアルゴリズムの適用の障害となっている.そこで,離散化を施すことなく,連続変数としてこれを扱うことで,パラメータ数は劇的に減少する.これを実現するためのアイデアは既に着想済みであり,具体的には積分関数の微分に関する数学的な知見を援用する. つぎに,現状の手法は環境変化の速さによって適切なパラメータ値が変化するため,同一のパラメータによって多様な速さの変化に対応することができない.これを実現するためには,環境中の物体の推定と予測が不可欠である.そこで,合意プロトコルと呼ばれる協調制御手法を用いて,非線形システムの集合値オブザーバを分散協調化する.理論的な解析を目指すことは言うまでもないが,もし時間の制限でその導出に至らない場合は,実験的にこれを実装し,その有用性を検証する. 最後に,以上の内容を統合したアルゴリズムを昨年度までに構築した実験システム上に実装し,全体アルゴリズムの有効性を検証する.なお,これらの成果をまとめた論文を国際論文誌に投稿することも次年度の課題である.
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