研究実績の概要 |
本提案研究では,これまで行動経済学や社会科学の分野で議論されてきた,人間環境と情報の伝搬に関する確率動力学としての基礎論を,ネットワーク理論・確率過程論とを融合させて,動的システムの枠組みでモデル化し確立することを目的とした.モデルは離散時間モデルと連続時間モデルの両方について考察を行った.各主体を接続するネットワークは,有界なものから無限に広いモデルへと拡張していくとし,有界なネットワークモデルでは,グラフ理論とレプリケータ力学系を結びつけ,確率的有向ラプラシアンから状態方程式を抽出する手法を解析した.無限に広いモデルでは,パーコレーション理論を活用して,情報拡散の臨界確率を特徴付けることに成功した.従来の静的モデルでの評価変数である情報の到達時間は,動的システムにおける(線形化)固有値として評価できることがわかった.
27年度は,チープトークにおける情報の非対称性解消のための戦略の特徴付けを中心に考察した.情報開示ゲームでは,当初存在していた情報の非対称性は情報伝達という行為そのものによって解消されることがわかっているが,一般のチープトークに対して本提案研究初年度に得られた知見に基づいて,コミュニケーションが情報の非対称性を解消させる原理を,マルチエージェントシステムにおけるコンセンサス問題との類似性に着目して,ある状態量がネットワーク全体である同一の値・記号へと収束していくプロセスとして解析した.
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