研究課題/領域番号 |
25420441
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
石川 昌明 山口大学, 理工学研究科, 教授 (30201916)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 感染症伝播モデル / 不規則外乱 / ワクチン接種 / 確率分岐 / 最適制御 / 確率最大原理 / 数値解析 / シミュレーション |
研究概要 |
(1)確率感染症モデルの構成:未感染者,感染者,回復者,ワクチン接種者の4個体群に対して外乱の影響を慮した相互関係を考え,各個体群密度の時間的変化を確率解析に基づき,連立確率微分方程式として,モデル化した.外乱としては正規性白色雑音を採用し,回復率,出生・死亡率,ワクチン効果減衰率などに外乱が含まれる場合を個別にモデル化し,個々の外乱の影響が明確になるようにした. (2)感染症伝播過程の安定解析:(1)で構成した4個体群の確率モデルを用いて,シミュレーションにより外乱の感染症伝播やワクチン接種への影響を解析した. 感染者の平衡状態が安定であれば感染症は定在化するため,ワクチン接種によって感染を阻止できないことになる.そこで,感染症制御のために感染者の平衡状態の安定性を考察する.感染期間内に感染者1人が生産する2次感染者数(基本再生産数$R_0$という)が1より小さくなれば感染者0の平衡状態が安定になり,感染症の流行は抑制・阻止可能と考えられるが,ワクチン接種による感染症制御においては基本再生産数$R_0$が1より小さくても感染者が定在する状態が安定となる場合がある.そこで, 文献[2]の確率分岐理論を応用し,外乱やワクチン接種の平衡解の安定性への影響やワクチン接種下において感染症伝播を阻止可能な基本再生産数を解析した. (3)感染症抑制戦略構築:ワクチン接種率を制御入力,感染者,未感染者,回復者およびワクチン接種者を状態変数として,感染者密度分布とワクチン接種率からなる2次評価関数を設定し,最適制御問題を考える.すなわち,感染症制御問題を非線形確率システムの最適制御問題として定式化し,確率最大原理(または確率動的計画法)を用いて感染症抑制戦略を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度研究計画に沿って,確率感染症モデルの構成,感染症伝播過程の安定解析を行い,当初の計画以上に感染症抑制戦略基礎が構築でき,以下の成果が得られたため. さらに,環境変化や個人差に起因する回復率や免疫喪失率などの不規則な揺らぎを取り入れた実際に即した確率感染症モデルを確率解析理論に基づき構成できたこと. また,感染症の流行と絶滅は各個体群の平衡状態の安定性と密接な関係があるので,確率分岐理論を適用して,感染者や回復者等の各個体群の平衡状態の安定性を明らかにできたこと.感染症抑制戦略を確率最大原理を用いて導出し,シミュレーションによりその有効性を検証できたこと. 研究成果を論文や関連学会において公表し,専門家との意見交換を通して,確立した感染症抑制戦略の改善を行ったこと.
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今後の研究の推進方策 |
感染地域・感染者数推定システムを構成し,平成25年度に確立した感染症抑制戦略と統合し,統合感染症抑制システムを確立する.次に, 実際問題への応用を検討する.以下に具体的計画・手法を記述する. (1) 統合感染症抑制システムの構築:確率推定理論を応用し,本研究において確立した感染症モデルを用い,感染地域・感染者数推定システムの構築を行う.さらに, 平成25年度に確立した感染症抑制戦略と統合し, 統合感染症抑制システムを確立する (2)統合感染症抑制システムのシミュレーション:統合感染症抑制システムの有効性をシミュレーションにより検証する.数値解析手法として,有限差分法(領域が1次元または長方形領域の場合)や有限要素法(形状が複雑な2次元領域の場合)を用いて,シミュレーションを行い,制御・推定誤差を評価する. (3)統合感染症抑制システムの改善検討:感染症制御系が計画どおりの制御性能を満たさない場合には以下の2点からシステムの改善を検討する.(a)対象個体群の検討:平成25度に構成した感染症抑制システムは感染者の潜伏期間を無視したモデルに基づいたワクチン接種による推定・制御系である.そこで,現実的な感染症の抑制制御のために,考察対象個体群に潜伏期間にある人口を加え,未感染者,潜伏者,感染者,回復者,ワクチン接種者の5個体群モデルを構成し,感染症抑制システム全体の性能改善を図る.(b)外乱のモデル化の検討:本研究では感染症伝播に付随する不規則外乱を時間・空間正規性白色雑音としてモデル化し,感染症抑制システムを設計するが,現実の雑音が近似的にも白色雑音と見なせず,推定・制御が有効に行えない場合が予想できる.この場合には白色雑音を有色雑音で置き換え,感染症抑制システムを再設計し,感染症抑制システムの改善を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
学会参加回数が予定数より減少したため. 予定数より少ない学会参加で当初の研究目的達成のための情報および資料収集が実施でき,かつ成果を公表できたたため,学会参加回数が予定数より減少した. 平成26年度の研究目的達成のために,感染症解析のための情報および資料収集と研究成果発表を実施するための旅費の一部に充当する.
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