研究実績の概要 |
医療技術が高度に発達した現代社会においても C型肝炎, HIV(人免疫不全ウィルス)感染症など様々な感染症の脅威が存在し,効果的な感染症流行抑制戦略構築が重要な社会問題の一つになっている.感染症流行抑制の有効な手段の一つにワクチン接種がある. そこで, より現実的解析のため,個人差,環境変化に起因する感染率のランダムな変化を考慮し,感染症伝播過程の確率モデルを提案し,最適ワクチン接種戦略構築を行った. 提案した確率感染症モデルの基本的特性は対応する確定モデルの平衡解の個数変化と密接な関係にあるため,確定平衡解について考察した. 確率感染症モデルの特性は上記のように分岐解析の観点から非常に複雑であり, 直接, 有効なワクチン接種率を理論的に求めることは難しい問題である. そこで, 確率最適制御理論を適用し, 最適なワクチン接種率を求める問題を考察した. 最適ワクチン接種率を得るには2つの主要な方法がある. 一つは確率動的計画法(SDP)であり, もう一つは確率最大原理(SMP)である. SDPでは, 非線形方程式であるハミルトン・ヤコビ・ベルマン(HJB)方程式を解く必要がある. HJB方程式を一般的に解くことは困難であり, その数値解法も数学的に難しい側面を有している. SMPにおいてはHJB方程式の代わりに前向き後ろ向き(FB)確率微分方程式の解を求める必要がある.しかし, FB確率微分方程式の非線形性は一般的にHJB方程式よりも弱い. そのため, 本研究ではSMPを採用した. 確定系では比較的容易にFB微分方程式を解くことが可能であるが, FB確率微分方程式は未来の状態が未知なため, 直接,その解を求めることは困難である. そこで, Four-step Schemeを適用したFB確率微分方程式の解の構成法を明らかにした.さらに, 最適ワクチン接種戦略を構成し,シミュレーションによりその有効性を検証した.
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