人間の呼吸システムの特性は個人によってそれぞれ異なっており,人工呼吸に際しては各患者の特性に合わせて換気条件を設定することが望ましい.そのためには呼吸システムの数理モデルを建て,患者各々の呼吸システムを特徴付けるパラメータを呼吸データから推定し,その推定結果に基づいて適格に呼吸の換気条件を決定するアプローチが有力である.本研究では,ファジィロジックの非線形関数の表現力と自然言語的表現能力に着目し,呼吸システムの弾性特性を表すエラスタンスをファジー関係でモデル化し,人工呼吸中の気圧流量などの観測データからこのファジィモデルを含む全体の呼吸システムのパラメータを推定する手法を提案している.呼吸システムのエラスタンス特性(P-V曲線)は人工呼吸の気圧上限値を決める重要な根拠となるので,このエラスタンスのファジィ表現により気圧上限値を決定するファジィ推論システムとの親和性が高くなり,人工呼吸医療支援システム全体がより構築しやすくなる.
前年度までの研究では,関数型SIMRs(Single Input Rule Modules)ファジィエラスタンスモデルを採用し,人工呼吸時の測定データからパラメータを推定する基本方法とランダム型プリ探索プロセスを導入した改良推定アルゴリズムを開発した.本年度の研究においてはさらに,パラメータ推定方法に工夫を加え,ステップ1)エラスタンス以外の項のパラメータ推定;ステップ2)ファジィ変数ランダム探索;ステップ3)肺エラスタンス項のパラメータ推定;ステップ4)肺エラスタンスの推定;ステップ5)肺内気圧推定値を用いた繰り返し推定といった各ステップを通して精度良く肺エラスタンスを推定する本格手になアルゴリズムを開発した.
また,肺弾性の履歴特性,呼吸の不完全周期性,時間特性,インターネット介在のシステム構築を考慮した試行錯誤を重ね,有益な知見を得ている.
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