基盤レベルでの地震動予測を行うためには震源特性の把握が必要である.昭和南海地震当時の強震記録は十分得られていないため,本研究では揺れに関する体験談の収集を進めてきた.前年度において,昭和南海地震については体験談を追加するとともに,昭和東南海地震についても体験談の収集を行い,それぞれ300を超えるに至った.武村や神田の震源モデルと比較した結果,南海地震の震源域では概ね整合したが,東南海地震では,震源モデルは揺れの体験談の傾向と概ね整合するものの,一部において見直しが必要であると考えられた.2015年初頭に以上の成果を「歴史地震」へ投稿したところ,数ヶ月後,査読意見が届き,最終年度は査読意見への対応から研究がスタートした. 査読意見では,体験談の解釈の方法についての意見の他,体験談の図表化が求められた他,編集者からの意見にも応じ,論文の構成を大幅に変えることとなった.これら査読意見への対応から,震源モデルと体験談との整合性がより明確になってくるとともに,論文が大幅に改善された.論文はその後,歴史地震第30号(2015)に掲載された.以上のプロセスを経る中で震源モデル構築の問題点として,東南海地震の際に袋井市に被害が集中した要因は表層地盤の影響であり,震度インバージョン,体験談からの推定,いずれにおいても表層地盤の影響を考慮しないと震源モデルに影響を与えてしまうものと考えられ,今後,工夫が必要である.なお,南海地震の震源域に従前の震源モデルを用いた場合の高知市の基盤レベルの地震動については算出し,ほぼ妥当な結果を得ている.一方,表層地盤モデルの構築については,これまで観測点が見いだせず空白地帯となっていた国分川東側の地点や気象庁の強震観測点においても微動観測を追加実施した.表層地盤の応答解析は固有値解析に留まっており,今後,多点位相差入力による時刻歴解析へと発展させる必要がある.
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