研究課題/領域番号 |
25420487
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
今井 富士夫 宮崎大学, 工学部, 教授 (00038077)
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研究分担者 |
尾上 幸造 宮崎大学, 工学部, 助教 (50435111)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 木部材 / ボルト接合 / 樹脂充填 / 耐荷力 / テーパ孔 |
研究実績の概要 |
木橋のボルト接合法ではボルトとボルト孔の隙間のガタを防止するため、隙間に樹脂を充填している。著者らはこれまで充填樹脂がボルト接合部の機能を向上させることを明らかにするとともに、その樹脂厚は2mmが最適で、樹脂型の耐力は、同じボルト径の打込み型の設計値を上回り、樹脂型のボルト孔と同じ径の打込み型の設計値とほぼ同等になることを見出している。接合法は木材両面に鋼板を配置する複せん断方式で、この場合、鋼板のずれにより接合ボルトの両端に局部的な曲げが生じるため、ボルト孔の両端には過大な応力集中が生じる。さらに、実際の施工ではすべてのボルトをボルト孔の中心に配置することは困難で、ボルトはボルト孔内部で偏在して挿入されると考えるべきであろう。 H25年度はまず樹脂効果の一般性を明らかにすることを目的に、ボルト偏在のないモデルの追加実験やH26年度に予定されていた応力集中を軽減するために考案したボルト孔両端を広げるテーパ孔を設けた「テーパ型」の実験を行い、その効果を確認した。しかしながら、樹脂の効果をボルト接合法の設計に反映するためには、偏在による負の影響や適切な樹脂の選択などの解決すべき課題が残されていた。 これらの課題はH27年度に予定されていたものであるが、H26年度に実施した。まずボルト偏在が接合部の耐力などに及ぼす影響の検討に加えて、テーパ型がボルト偏在の負の影響を無くす効果もあると考え、テーパ型のボルト偏在に関する実験も実施した。さらに、これまでの実験では宮崎県の木橋に採用された1種類の樹脂を使用してきたが、粘度の異なる樹脂についても実験を実施した。本申請では解析も計画されているが、解析精度は未だ乏しく、現在はボルトとボルト孔の接触要素として、簡易型の接触モデルを提案して、その有効性を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H25年度にテーパ効果に関する実験をボルト径d16、ボルト孔φ20を用いて、テーパ口径26mm~38mmの条件で行い、テーパを設ければ初期剛性や耐力は向上し、テーパ口径を32mmとすれば、打込み型d20とほぼ同等な結果を得ることを明らかにした。 H26年度はまず樹脂型のボルト孔内でボルトが偏在する実験を行い、偏在で最も不利な位置を特定し、その位置では樹脂による効果は無くなり、機能は使用ボルト径の打込み型まで低下することを確認した。これは偏在によりボルトとボルト孔に隙間がないことに起因している。しかしながら、応力が集中する両端に大きなテーパ孔を設けると、偏在によって中間部でボルトとボルト孔が接触しても、両端のテーパ孔には樹脂が充填されることから、接触により低下した樹脂効果は復活することは十分に考えられる。 そこで、偏在に対するテーパの効果を検討するために、偏在のないモデルと同様に3種類のテーパ供試体の実験を行ったところ、偏在してもテーパ口径を32mmあるいは38mmとすれば、偏在による機能低下はなくなり、樹脂の効果は十分に発揮できることを確認した。このことは、施工時にボルトをボルト孔に挿入する際に、偏在への配慮を不要とし、施工の簡便化をもたらすものである。実験ではこれまで、実際の施工で使用された1種類のエポキシ系樹脂を使用してきたが、H26年度はさらに粘度の低いエポキシ樹脂を使用して、両者の比較を行った。その結果、樹脂効果に大きな差異がないことが明らかとなった。 接合部の変形過程でボルトとボルト孔の接触部は荷重抵抗側ではめり込みが、逆側は離れが生じる。解析ではボルトと木材間の接触部に適用できると考えられる要素を種々検討してきたが、十分な解析結果を得ることはできていない。そこで、新たな簡易型の要素を提案して、終局までの挙動を解析できるように改良に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでボルトとボルト孔の隙間に充填された樹脂はボルト接合部の初期剛性を増加させるとともに、耐力をボルト孔と同径のボルトの設計耐力まで向上させることを明らかした。その一方で、施工時にボルトがボルト孔の中央に必ずしも挿入されないことが課題となっていたが、ボルト孔両端に適切なテーパ孔を設けることで、ボルト偏在による強度低下(樹脂効果の低減)を防ぐことも確認した。本年度(H27年度)はこれまでの実験データを整理して、樹脂の効果を反映した設計仕様への提案を行う予定である。 実験で使用した樹脂は木材に比べて弾性係数が1/2となる柔らかいものである。ボルトと木材の間に柔らかい樹脂を挟めば、物体間の応力伝達は緩和すると考えるのが一般的であるが、本実験でのすべての供試体で、打込み型に比べて樹脂型のほうがボルト変形による応力集中が大きくなる傾向が示されている。これまでの実験ではボルト孔から20mmの位置の集成材の各ラミナにゲージを一枚貼付していたが、ボルト孔周りの応力分布を十分に把握できていないと考えられる。そこで、ボルト孔周りに多くのゲージを貼付してひずみ変化を詳細に把握しようと考えている。また、これまでの樹脂はエポキシ樹脂で、樹脂型のデータにバラツキが生じた理由として樹脂の硬化の確実性にあるとも考えられ、樹脂の養生条件について検討するとともに、低温下でかつ短時間でも硬化するアクリル樹脂についても検討する 解析については、いまだ接合部の非線形挙動を十分に捉えることはできていない。これはボルトとボルト孔の接触部に適用している要素、拘束条件及び材料定数が十分でないものと考えられる。そこで、これまでの文献調査や実験結果を基に、ボルトとボルト孔の接触部での要素、拘束及び材料定数を再考して、精度の良い解析モデルを提案し、パラメトリック解析を行なって、樹脂効果を確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
供試体の作成やひずみゲージの貼付などについて、当初の見込み額との差異が生じたため
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次年度使用額の使用計画 |
供試体の作成費用ならびにひずみゲージなどの購入費に使用する。
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