研究課題/領域番号 |
25420499
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
梅崎 健夫 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50193933)
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研究分担者 |
日野 剛徳 佐賀大学, 低平地沿岸海域研究センター, 教授 (20295033)
河村 隆 信州大学, 学術研究院工学系, 助教 (50324231)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 地盤工学 / 土留め工 / 鋼矢板 / 周面摩擦 / 地盤変状 / 吸水性高分子 / 拘束圧 / 土中水のイオン成分 |
研究実績の概要 |
(1)不撹乱試料の採取と土中水中のイオン成分分析:佐賀県の有明海沿岸部において,平成25年度と異なる地点で採取した試料のイオン成分分析および浸水試験により,セメント改良地盤周辺での吸水性高分子摩擦低減剤(FC剤)の適用を検討した.その結果,周辺地盤の環境に及ぼす影響は認められないことを再確認した.また,同傾向を浸水試験によっても確認した. (2)拘束圧下におけるFC剤の膨潤・透水特性:純水,人工海水,セメント水に対して濃度と拘束圧の異なる膨潤・透水試験より,以下の知見を得た.①FC剤の最大膨潤倍率Rmaxは,有効拘束圧p’,塩分濃度s,セメント水比C/Wの影響を受けるが,間隙水圧uの影響は受けない.②s,C/Wを変数として,Rmaxとp’の関係を定式化した.③FC剤の透水係数kはp’やsおよびC/Wに依存せず,Rmaxのみで評価できることを明らかにし,定式化した.いずれの場合もkは非常に小さく,高い止水性を有する. (3)鋼材に塗布したFC剤の摩擦特性:FC剤の一面せん断試験における試験方法を改善し,以下の知見を得た.①FC剤は,粘着性材料ではなく,摩擦性材料として評価できる.さらに,土と接触した場合も同様の関係として評価することができる.②FC剤の摩擦角はδ≒1.0°であり,土の摩擦角の1/30~1/50程度である.③膨潤倍率RによりFC剤のδは変化するが,R=2.5(吸水量0.015g/cm2)においてもδ≒3°である.すなわち,少しの水を吸水すれば分離層として十分機能する. (4)FC剤を塗布した矢板の引抜きに伴う地盤変状モデルの構築:FC剤を塗布した鋼矢板の引抜き遠心模型実験より,以下の知見を得た.①引抜きに伴う土塊の排出は生じない.引抜き時の摩擦角はδ=1°以下であり,非常に小さい.②鋼矢板の引抜きに伴う地盤変状の影響範囲は,鋼矢板の下端から約45°の範囲と推定される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)不撹乱試料の採取と土中水中のイオン成分分析:典型的な海成粘土地盤である佐賀県の有明海沿岸部において,平成25年度とは異なる地点での不撹乱海成粘土を採取し,土質試験および間隙水のイオン分析を実施し,基本データを拡充した.しかし,摩擦試験を実施するための不撹乱試料採取は,次年度に実施することとした. (2)拘束圧下における吸水性高分子摩擦低減剤の膨潤・透水特性:人工海水,セメント水に対する試験はほぼ完了している.結果に基づいて,人工海水およびセメント水の濃度が異なる場合の膨潤倍率と拘束圧および透水係数の関係を定式化し,研究目的をほぼ完了し,計画以上に進展している. (3)鋼材に塗布した吸水性高分子摩擦低減剤の摩擦特性:試験方法を改善し吸水性高分子摩擦低減剤の摩擦角について精査した.さらに,砂質土のように間隙水を十分に吸水できる場合と保水性のある粘土層のように短時間で十分に吸水できない場合における吸水性高分子摩擦低減剤単体の摩擦特性を検討した.まず,純水に対して,膨潤量が異なる場合の摩擦特性について明らかにした.人工海水およびセメント水に対する同様の試験も実施しており,順調に進展している.しかし,不撹乱試料を用いた摩擦試験は次年度に実施することとした. (4)吸水性高分子摩擦低減剤を塗布した矢板の引抜きに伴う地盤変状モデルの構築:①吸水性高分子摩擦低減剤を塗布した鋼矢板の引抜き遠心模型実験を実施した.②遠心場で鋼矢板の厚さを再現するためには,模型鋼矢板の厚さを非常に薄くする必要があるが,その実験は困難である.そのため,次年度において,模型鋼矢板の厚さを変えた複数の実験を実施し,その結果を外挿して,鋼矢板を引き抜いた際の地盤変状を定量評価する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
(1)不撹乱試料の採取:典型的な海成粘土地盤である佐賀県の有明海沿岸部において,採取地点の特定を完了し,適切な時期に摩擦試験用の不撹乱海成粘土の採取を行う. (2)鋼材に塗布した吸水性高分子摩擦低減剤の摩擦特性:平成26年度の研究実施計画(2)を継続し,人工海水,セメント水を吸水膨潤(ゲル化)した吸水性高分子摩擦低減剤の摩擦試験を実施し,水溶液の濃度および膨潤倍率と摩擦角の関係を明らかにする.さらに,不撹乱海成粘土を用いた摩擦試験を実施する. (3)吸水性高分子摩擦低減剤を塗布した矢板の引抜きに伴う地盤変状モデルの構築:平成26年度の研究実施計画(3)①を継続し,模型鋼矢板の厚さを変えた遠心模型実験を実施する.②その結果を外挿し,実際の条件に対応する地盤変状について定量評価を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
不撹乱試料を間隙水中のイオン成分分析に優先して使用し,摩擦試験用の試料採取を次年度に実施することとしたため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の残額および平成27年度の当初経費を使用して,①佐賀県の有明海沿岸部において不撹乱試料の採取,②不撹乱試料を用いた摩擦試験,③海水,セメント水に対する摩擦試験,④吸水性高分子摩擦低減剤を塗布した対策工に関する遠心模型実験,を実施する.
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