研究課題/領域番号 |
25420506
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
上野 勝利 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 准教授 (70232767)
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研究分担者 |
高原 利幸 金沢大学, 環境デザイン学系, 助教 (20324098)
スレン ソッキアン 日本工営株式会社中央研究所, 総合技術開発部 地盤・材料グループ, 研究員 (10463572)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 堤防 / 空洞化 / 国際情報交換 カンボジア王国 / 静電容量式空洞化センサ / 浸水・排水履歴 / 護岸 / 社会基盤モニタリング / 社会基盤の維持管理 |
研究実績の概要 |
平成26年度の実施計画では、1.浸水・排水繰返しによる空洞化と防潮堤の安定に関する模型実験、2.リアルタイム計測システムの開発と原位置水位・水分測定の継続、3.空洞化数値計算シミュレーションの開発、4.空洞を有する地盤の変形解析、5.新たな現場計測の準備を計画した。 1.の模型実験では、重力式防潮堤の安定に関しては、矢板打設によって揚水圧を低減することにより転倒対策となることを遠心力模型実験ならびにFEM浸透解析の結果から示し、必要な矢板根入れ深さの決定方法を提案した。更に矢板岸壁に生じた小孔からの浸水・排水により裏込め土内に空洞が発生発達する過程を再現した。 2.については、水位計を土砂災害危険箇所に指定されている斜面に設置し、リアルタイム計測のシステムを構築している。現在は、太陽電池+バッテリーで原位置センサーから取得した情報を無線により協力一般家庭のLinuxシステムに転送し、そこから更に無線ランを通じてサーバーに取り込んでいる。現在、2つの無線を介するために1ヶ月に1度程度生じる通信不具合の解消とWEBでの閲覧ソフトの改良を行い、近隣の公開されている雨量計のデータを自動で取り込み、土壌雨量指数などの計算値、過去の最大値と計測値を比較できるように改良を行っている。ただし、河川堤防の計測システムは完成したが,昨年12月の落雷の影響で計測に問題が生じている。 3.の空洞化数値シミュレーションでは、DEMと流体場の2次元での連成はほぼ完成したが、現在3次元化に取り組んでおり、計算時間軽減のためのプログラミングを試行している。 4.では、画像解析による変形計測システムの改良をおこない、より微小な変形を計測できるようにした。 5.では徳島県南部の河川堤防の浸食箇所へセンサ埋設準備をしている。顕著な被害が生じているカンボジアでの適用について、カンボジア工科大学とワークショップを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水位変動を受ける護岸構造物の浸水・排水に伴う空洞化について、模型実験を行い、空洞化の過程を実験的に把握した。また、陸上に設置された防潮堤に対して、津波などの水位上昇時に揚圧力を受けて転倒する現象を重力場ならびに遠心力場の模型実験により再現し、メカニズムを明らかにした。更に既存構造物に対する対策方法として、矢板を打設し揚圧力を低減することにより転倒に対する安定性を改善する効果を検証し、模型実験とFEM浸透解析により必要な矢板の打設深さを提案した。 リアルタイム計測システムの開発については、富山市の河川堤防の現場計測箇所において落雷の影響で昨年12月より計測に問題が生じており、能美市の土砂災害危険箇所での現場計測に移行せざるを得ない状況である。開発自体はほぼ当初計画どおりに進んでおり、27年度前半には完成予定である。 空洞化数値計算シミュレーションについては、3次元化での問題解決に手間取ったため、やや遅れ気味である。地盤の変形解析については画像解析システムを改善し、より微小な変形可視化に成功している。 空洞化のモニタリング方法の開発については、模型実験レベルではほぼ順調に進行している。原位置計測についても大学敷地内での試験的な計測の実施や、徳島県南部の空洞化被害が生じた河川堤防を対象とした具体的な計測箇所も決定し、計画は順調に進んでいる。新たな方向性として、雨季と乾季の陸水変動が大きく、大規模な堤防崩壊や空洞化が頻発しているカンボジアでの現場計測について、現地のカンボジア工科大学との関係も形成されてきている。 以上のようにおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
【1 原位置計測の継続と実用化の検討】土砂災害危険箇所での実測では、水分計の計測も再開する予定である。さらに、土壌雨量指数と地下水位の関係などを調べるとともに、住民への公開を行い、計測システムの実用化方法について検討する予定である。堤防の浸水・空洞化の計測については、新たな計測地点を加える。空洞化センサでは比較的長尺のセンサを埋設し、線的あるいは面的なモニタリングを行い、センサの実用性を検証する。富山市の原位置計測箇所では、雷害によるセンサの埋設回路部分が故障した。高い分解能を保ったまま、広レンジの測定が可能であるという、提案している静電容量式センサの特徴を生かし、回路部は埋設せず保守性のよい地上に設置し、電極部分のみ地中埋設とし、雷害などの故障に対応できるよう改善する。徳島県の災害復旧現場での原位置計測によりその検証を行う。原位置計測のデータの蓄積とともに、異常値抽出方法についても検討を行う。引き続き平成26年度にワークショップを行った、カンボジア工科大学との連携関係構築を進め、カンボジアでの適用を進める。 【2 模型実験】浸水・排水繰返しにより空洞が形成される護岸構造物について、遠心模型実験を行い、浸水・空洞化の程度と構造物の変形や破壊状態の関連を明らかにする。 【3 解析的研究】有限要素法と個別要素法による土水連成解析による空洞化数値シミュレーションは、プログラムの3次元対応への改善を行う。解析プログラムの完成後、再現実験と比較を行う。空洞を有する地盤の変形と破壊に関しては、有限要素法による支持力解析を行い、危険度判定図表を作成する。 【4 構造物維持管理手法の開発】原位置計測、模型実験、解析的研究の結果を統合し、静電容量型センサによる計測結果から堤防などの浸水・空洞化を早期に検出し、維持管理に活用する手法を考案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に実施した空洞発生の模型実験では、現有装置を改良した実験を実施したため、当初の見込みに比べ使用経費を節約することができた。加えて平成26年度に計画していた現場計測については、平成26年8月に発生した台風による橋梁橋台周辺の洗掘被害と河川堤防の浸食崩壊の災害復旧工事に伴い、センサの埋設工事を実施するよう徳島県の協力を得られることとなった。復旧工事が平成27年度に実施されるため、予算の執行も平成27年度に繰り越すこととなった。上記2点の理由により、251,108円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
空洞発生の模型実験について、平成27年度には空洞の発生に伴う護岸構造物の変形や破壊について、模型実験を行う予定である。重力場実験では、構造物模型に実構造物レベルの変形や破壊を生じさせるに十分な荷重レベルを得ることが難しいため、遠心力模型実験を実施することを予定している。繰り越した経費の一部は、遠心力模型実験の模型装置作成や実験実施のために使用する。加えて災害復旧工事に併せて現場計測を実施するため、センサや計測装置の製作や埋設工事に伴う経費として、繰り越した経費を使用する。
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