研究課題/領域番号 |
25420507
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
吉田 秀典 香川大学, 工学部, 教授 (80265470)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射性物質 / 電気泳動法 / 除染 / 吸着材 |
研究概要 |
土壌中に陽イオンの形として存在する放射性物質を除染する場合,吸着材の吸着性能が高くとも,放射性物質が移動しない限り,これらを取り除くことができない.そこで本研究では,放射性物質が水溶性であり,土壌中の水分に溶け込んでイオンとして存在することに着目し,電気泳動法を用いて,これらの陽イオンを陰極側に強制的に移動させ,陰極の手前に置かれた吸着材に吸着させる.実験容器の最下部に,陽極を設置し,これに導線をつなぐ.その上に,土壌に見立てた標準砂に水酸化セシウム溶液を添加し,さらに,電解質を投入する.標準砂の上に吸着材を設置し,最終的に,吸着材の上に陰極を敷いて,これも導線を繋ぐ. 電解質としては,10種類ほど検討した結果,土壌より陽イオンを分離するパフォーマンスが最も優れていた酢酸アンモニウムを用いた.なお,電流の値は50mAに設定した. 吸着材としては,ゼオライト,ベントナイト,そしてヒドロキシアパタイトの3種類を用い,6時間,12時間,24時間,そして48時間の通電を行い,通電後,砂および電解質中に残存するセシウムの量を,原子吸光分析装置を用いて定量評価した. ゼオライトの場合,細粒のもので24時間後には約90%のセシウムが,荒いものでは,24時間後で約60%,48時間後で約90%が吸着された.つまり,細粒のものを用いれば短い時間で吸着できるが,そうでなくとも,48時間で吸着できる.ベントナイトの場合,細粒のものとそうでないものでそれほど差がなく,24時間で概ね70~80%が,48時間で約90%を吸着できた.ヒドロキシアパタイトの場合,細粒のものしか実験が完了していないが,24時間で約50%が,48時間で93%ほどを吸着できる.これより,いずれの吸着材を用いても,48時間ほど通電することで,概ね90%を吸着できることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,ゼオライトと同等あるいはそれ以上の陽イオン交換能力を有すると考えられるヒドロキシアパタイト(HAp)やベントナイトと言った吸着材の吸着特性について調べることを目的としていたが,電解質の種類,通電時間を変化させた他,それぞれに実験を3回行うなどの措置を講じて,再現性も確保できていることから,この目的は,概ね達成できたと判断している. また,上記の実験については,セシウムだけでなく,ストロンチウムについても実験しており,ストロンチウムについても,概ね,同様の傾向を得ており,電気泳動法を用いた本研究の提案手法にて,こうした陽イオンを吸着できることが判明したことは,一定の成果と言える.ただし,ストロンチウムについては,依然として実験ケースが十分とは言い難いので,次年度にも実施して行きたいと考えている. 一般的には,土壌中の粘土等に取り込まれたセシウムなどは,抽出が難しいとされている.本研究でも,粘土分の少ない標準砂と粘土分を多く含むまさ土では,前者が抽出量が多いのに,後者は少ないという結果を得ている.しかしながら,電解質に酢酸アンモニウムを用いることで,標準砂では,通電せずともほぼ全ての抽出に成功し,まさ土においては,通電を併用することで,添加したセシウムの70%強を抽出することに成功した.粘土分の多い土壌の除染が難しい理由として,上記のような,粘土分に取り込まれたセシウムなどは,ほぼ,抽出できないということが理由に挙げられているが,酢酸アンモニウムの投入と電気泳動法の併用で,従前の知見を覆すような陽イオン(ここではセシウム)の抽出に成功したこともまた,研究の成果の1つとして認識している. 上記より,現時点において,研究は概ね順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
上述した通り,標準砂にセシウムを混合させた供試体については,48時間程度の通電によって,吸着材ならびに吸着材の粒径などに関係なく,添加したセシウムの90%以上が,供試体から分離され,吸着材に吸着されていることが判明した.つまり,原理的には,本手法にて,土壌中のセシウムを吸着材に吸着可能であることが判明した.今年度上半期では,装置の製作,電源装置や攪拌機などの機械類を取得し,まず,セシウムを中心に吸着試験を実施したが,今年度の後半では,以下のような計画を立てている. 1.東京電力福島第一原子力発電所において,放射能に汚染された水が漏れている報道などでクローズアップされているβ線であるが,その大半はストロンチムである.したがって,今度,ストロンチムに汚染された土壌の除染などが課題になると考えられることから,ストロンチウムについても,上半期に実施したセシウムと同様な吸着試験を実施する. 2.試験の基礎的なパフォーマンスなどを検討する場合,試験には,再現性が確保されることが望まれる.したがって,本研究においては,基礎的な段階においては,供試体として,豊浦標準砂を選択した.しかしながら,標準砂は,土壌としては特殊であると言わざるを得ないことから,豊浦標準砂以外の土壌に対しても,同様の吸着試験を実施し,土壌の違いがセシウム/ストロンチムの吸着に与える影響について考察を加える. 3.各吸着材における吸着性能については,通電時間がある一定以上であれば横並びになることから,他に製品としての事例がないこと,また,コスト的にも優れていることから,ヒドロキシアパタイトを主体とした除染マット(あるいは除染シート)の開発を行う. 4.最終的に,福島県において,実地試験を行い,放射線量が下がることを確認する.
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次年度の研究費の使用計画 |
1000円未満の小額だけが残ったが,当初予定していたよりも,時勢価格が下がっていたことが原因と考えている. 実験消耗品などに使用する予定である.
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