研究課題/領域番号 |
25420507
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
吉田 秀典 香川大学, 工学部, 教授 (80265470)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射性物質 / 電気泳動法 / 除染 / 吸着材 |
研究実績の概要 |
今年度は,主として,(1)ヒドロキシアパタイト(HAp)を主成分とする吸着シート(HApシート)の開発,(2)粘土分が多い土壌におけるセシウムの抽出能力とHApシートの吸着特性の把握,という2項目について検討をした.その結果,以下のような知見を得た. 開発したHApシートについては,1.放射性セシウムのように,土壌中で陽イオンとして存在する放射性物質の吸着が可能である,2.横長の構造を有しており,保管時においては,絨毯ロールのように巻き取って収納ができ,使用時には,それを広げて設置することで,広範囲にわたる除染が可能となる,3.HApシートの主成分であるHApは,ゼオライト鉱石やベントナイト鉱石と同様に高い陽イオン交換特性を有しており,除染においても,これらと同等の効果を発揮する,4.HApシートは厚さが4mm程度と薄く,また,素材が軽量であるため,運搬が,設置,そして回収が容易である,5.今後は大型装置を用いた吸着試験にも採用し,有用性が確認された後は特許出願に結びつける,という結論を得た. 粘土分が多い土壌におけるセシウムの抽出能力とHApシートの吸着特性の検討として,1.抽出溶液の濃度をより濃く,また,抽出溶液により長時間浸漬させることで抽出効果は向上するが,いずれも最適な濃度や最適な時間が存在し,濃度も時間も,ある一定の値を超えると抽出効果は頭打ちになる,2.HApシートを用いることである程度は吸着できているが,土壌より抽出したセシウムイオンの全てを吸着でできていないだけでなく,電気泳動法を用いた場合は,粘土鉱物の持つフレイド・エッジのより奥深くへとセシウムイオンが入り込み,粘土鉱物への固着を促進させている可能性がある,3.土壌より抽出できていると思われるセシウムイオンの効率の良い吸着方法を検討する必要がある,という結論を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の題目は「各種吸着材料における放射性物質の吸着特性に関する研究と除染マットの開発」であり,このうち,「各種吸着材料における放射性物質の吸着特性に関する研究」については昨年度実行している.ゼオライト,スメクタイト,ヒドロキシアパタイト(HAp)という3種類の吸着材を用意し,電気泳動法を応用した手法にて,土壌中に添加されたセシウムを取り除くという試験を実施した.その結果,これら3つの吸着材の吸着能力は概ね等しく,大きな差はなかった.これを受けて,今年度は,これら3つの吸着材よりHApを主成分とする吸着シートを作製することとした.このことは,本研究の題目の後半部である「除染マットの開発」に該当する.HApを採用した理由は,まず第一に,スメクタイトは水分が供給されると膨張することに加え,自身が膨張することで止水効果が高まるため,これを主成分に持つシート類の作製は難しいと判断した.ゼオライトについてはそのような特徴は無く,また,東京電力福島第一発電所においても,放射性物質に汚染された水からセシウムを除去することに用いられており,既に実績がある.加えて,ゼオライトを主成分に持つシート類は,既に開発済みであることから,ゼオライトを主成分とするシートの開発は新規的な要素が相対的に低くなる.さらに,東北地方太平洋沖地震の被災地である宮城,岩手には水揚げ量の多い漁港が多数存在し,多くの魚骨が廃棄物として排出されるが,HApはこうした魚骨から加工・作製されるため,震災地の復興ということも念頭にいれると,ゼオライトを用いて吸着シートを作製するよりも,魚骨由来のHApを用いることには意義が大きい.そこで,本研究ではHApを主成分とする吸着シート(除染マット)の開発を行い,概ね,その開発を終えていることから,研究は,概ね順調と判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
ヒドロキシアパタイト(HAp)を主成分とする吸着シート(HApシート)の開発に関しては,平成26年度に開発を終えたばかりなので,試験条件を変化させて数多くの試験(電解質の濃度の変化,時間変化,試験規模の大型化など)を実施し,このシートにおけるセシウムならびにストロンチウムの吸着能力を明確にしていく必要がある.また,可能であれば,シートにおけるHApの含有量を変化させてシートを作製したいと考えている.一連の試験を経てシートの吸着特性を明確にした後は,まず,製品としての特許出願を考えたい. 粘土分が多い土壌におけるセシウムの抽出能力とHApシートの吸着特性の把握については,平成25年度の試験では土壌として豊浦標準砂を用いていたが,平成26年度はより実際の土壌に対するセシウムの抽出ならびにその吸着を念頭に,土壌としてまさ土を用いて試験を実施した.その結果,抽出を高めるために用いる酢酸アンモニウムの濃度をある程度大きくし,かつ,時間もある程度まで長くして浸漬させることで抽出効果が高まることまでは判明したが,これを電気泳動法にて吸着すると,標準砂で見られたような効果は認められず,吸着,つまり,土壌からセシウムを取り除ける量はそれほど多くなかった.この原因として,土壌中のセシウムイオンを電気泳動法にて移動させるにあたって,セシウムイオンをフレイド・エッジの奥深くへ移動させ,固着を促進させてしまっている可能性があるため,抽出されたセシウムイオンをより効率良く吸着材側へ移動させるような手法を検討する必要がある.具体的には,通電時間を短くした上で,溶液中に抽出されたセシウムイオンに対して集中的電気泳動を促すというような試験を検討したり,より適切な電解質の濃度を検討する必要があると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
「その他」の経費として計上していた論文投稿に係る経費が予定額を下回ったため
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次年度使用額の使用計画 |
27年度に実施予定の論文投稿費等にて使用予定
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