近世城郭の石垣は,天守閣などの建造物の基礎構造物であるとともに,貴重な文化財であることから,後世に永く保存していく必要がある。石垣の多くは,石材の割れやはらみ出しの老朽化が進行し安定性の低下が懸念されるなか,近年の自然災害時には石垣の崩壊事例が発生している。老朽化が進行した石垣を適切にかつ優先順位を持って維持管理するためには,石垣の安定性を定量的に評価する必要がある。これまでに,高知城の石垣部を対象に常時微動測定による調査を実施し,常時微動測定値のH/Vスペクトル比の大きさが石垣の老朽化度を表す指標となり得ることを示唆する結果を得た。しかし,常時微動測定の実施時期の違いによる測定結果への影響が考慮されていなかったことや,実際に変状が大きな石垣石上での計測結果が得られていなかった等の課題が残されていた。 本研究では,石垣部の変状が高知城よりも顕著であり,なおかつ高石垣である丸亀城を対象として常時微動測定を行い,得られた振動特性から石垣老朽箇所抽出方法の構築を行なうことを目的とする。 丸亀城石垣部を対象とし常時微動測定を実施し,H/Vスペクトル比率の解析手法を用いた結果,まず石垣石上と栗石上での卓越周波数の関係は概ね一致していたが,増幅率では栗石上の方が石垣石上よりも大きくなっている傾向にあった。また,目視判断による実際に変状が大きい箇所と比較すると,解析結果は変状が大きい箇所と概ね一致していることから,H/Vスペクトル比率による手法は変状箇所抽出に適当であると考えられた。増幅率が大きくなっている地点は,花崗岩の風化の影響があることが示唆された。
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