研究課題/領域番号 |
25420517
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
由比 政年 金沢大学, 環境デザイン学系, 教授 (20262553)
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研究分担者 |
楳田 真也 金沢大学, 環境デザイン学系, 准教授 (30313688)
山田 文彦 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (60264280)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 沿岸砂州 / 海浜システム / 長期動態 / 人為改変 / 広域流砂系 |
研究概要 |
本年度は,沿岸砂州変動を基幹とした海浜システム動態に関する総合的理解の深化,および,複合的人為インパクトに対する遷移・応答機構の解明を主体として研究を行い,以下の成果を得た. 3次元長期砂州動態の実態解明にあたっては,石川海岸を対象に50年以上の長期間蓄積されてきた地形観測データを活用して地形変動データベースを整備し,沿岸砂州の3次元砂州変動の特徴を明らかにした.砂州システムの移動形態は, (1)形成,(2)沖向き発達,(3)沖向き減衰,(4)岸向き減衰の連続ステージで特徴づけられ,石川海岸固有の3次元形状変化を伴う変遷パターンを有することを明らかにした.この組織的変遷過程において,同世代の砂州が時間差を有して沖向き移動するパターンが繰り返され,砂州の切断や分岐,再接続などの大規模な3次元変動が確認されること,また,岸向きの移動減衰ステージが存在することが海外の観測例と比較して特徴的である.さらに,人為的改変の影響発現前後の砂州動態を比較解析し,砂州配置の変遷パターンは定性的に維持されるが,移動範囲や発達規模に対して,人為的インパクトによる海岸土砂量の減少や構造物建設の影響が顕著に現れることを示した.千里浜周辺海岸においても砂州の分断および異世代砂州の再接続等の3次元的な現象の発現を確認するとともに,海底勾配が緩やかで砂州の移動距離が長くなる領域で再現周期が短くなる点で海外諸地域における観測例と異なる傾向を有することを示した.上記と並行して,ネットワークカメラおよび簡易空撮気球を活用してローカルリモートセンシング観測を行い,沿岸砂州の中期変動を面的に連続計測するシステムを構築することを試みた.鉢ヶ崎海岸におけるネットワークカメラシステム観測では,沿岸砂州やメガカスプの発達・移動のビーチサイクルを面的に捉え得ることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,沿岸砂州の長期変動の変遷を基軸として,広域流砂系の複合的人為改変に伴う海浜システムの変遷機構の解明と比較実証を段階的に進めている.初年度は,長期動態の解析と人為改変への応答を中心に検討を進め,複数海岸を対象に比較海浜地形学的な視点を加味した検討を行った. 初年度の成果として,石川海岸における長期観測データに基づく3次元地形変動解析により, 沿岸砂州システムの特徴的変遷パターンを抽出・モデル化することに成功し,人為改変前後の共通特性および変化特性を明らかにしてきた.また,千里浜および周辺海岸においても中長期の砂州変動に関する特徴を抽出・モデル化した.これらの成果は,現在継続中の経験的モデルの構築とその適用に活用可能であり,各サイトにおける砂州3次元動態の代表モードの特徴や,サイト間の共通点・相違点の抽出・解明,人為改変型の相違による応答過程変化,さらには,国内外の観測例との比較実証を深化させるための基礎となるものである.また,鉢ヶ崎海岸において,ネットワークカメラによる観測システムを活用して,中期変動の面的情報を取得分析する取り組みを並行して進めており,観測データの蓄積が進むとともにより広範な時間スケールの検討が可能となることが期待できる.また,広域流砂系における人為的インパクトの境界条件として重要となる河川供給土砂量の変化についても観測データに基づいて長期変動モデルを構築しており,次年度実施予定のインパクト‐レスポンス解析に活用できる.数値モデルの高度化に関する取り組みが当初予定より遅れ気味であるが,全体としては,概ね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果を踏まえて,今後は以下のように研究を進めていく予定である. まず,経験的固有関数法などの統計解析手法や時系列解析法を活用した経験的モデルを開発し,現象論的な解析を行って,各サイトにおける砂州3次元動態の代表モードの特徴や,サイト間の共通点・相違点の抽出・解明を引き続き深化させる.合わせて,ネットワークカメラシステムを継続運用し,簡易空撮気球やGNSS測量による観測技術を開発・併用することで,連続的・面的な地形変動情報の取得を継続させる.また,河川土砂供給の減少に伴う海浜土砂量の減少や海岸・港湾構造物の建設との相関解析を行って,インパクト⇔レスポンスの関連を解析する.ここでは,各種の人為的インパクトの発動前後で,砂州の3次元動態がどのように変化したかを解析するとともに,海浜比較地形学的な検討を行い,海浜基本性状や人為的インパクトの形式および伝達時期による,遷移応答過程の違いを明らかにする.さらに,より多角的な検討を進めるため,海浜地形変動の解析で近年国際的に実績のあるオープンソースモデルを基本として,砂層空隙構造の時空間変動などのミクロな土砂物理を組込んだ,プロセスベースの海浜変形数値モデルを構築し,適用性の検証を行って,砂州変動の内部機構の解明や中期変動サイクルの再現解析への活用を進めていく.
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