最終年度に実施した研究成果 最終年度では,以下の①~③についての検討を実施した.①高山市の観測サイトにおいて樹冠遮断現象の観測を継続した.②MODIS NDVI値データと高分解能Lidarデータとの比較結果を利用して,降雨遮断モデルへの入力データとして利用する解析対象降雨イベント時の樹冠疎密度分布データをMODIS10日間コンポジットデータより作成した.③ 分布型降雨遮断モデルにMODISデータより作成した樹冠疎密度分布データを入力し,解析対象降雨イベントにおける流域平均降雨遮断量を推定した.推定降雨遮断量と流域下端での観測流量ハイドログラフより作成した直接流出量を比較し,推定降雨遮断率と直接流出率,すなわち有効降雨量と比較し分布型遮断降雨遮断モデルの推定精度を評価したところ,あまり精度の向上が見られなかった.そこで,追加の検討として,降雨遮断蒸発現象のメカニズムを解明するため,樹冠への雨滴衝突前後の飛沫サイズの変化とその蒸発効率について室内実験を実施した. 研究期間全体を通じて実施した研究成果 実時間洪水予測モデルの高度化を目的とし,衛星データによる植生分布の季節変動を加味した分布型降雨遮断モデルにより,豪雨時の降雨損失の推定精度の向上を図った.前述の通りMODISデータを用いた植生の季節変動情報を加えた分布型遮断モデルを構築し,その推定精度を検討したところ,残念ながら先行研究よりも推定精度が悪くなるという結果となった.豪雨時に生じる降雨損失は,植生の季節変動による影響,気温上昇による蒸発効率の変化とは傾向が大きく異なり,別の要因に大きく依存していることが示唆された.一方,樹冠遮断現象の室内実験の結果,樹冠への雨滴衝突による飛沫は遮断蒸発の原因では無いことが示唆された.降雨遮断量の実時間予測のために,遮断現象のメカニズムの解明と遮断モデルの改良が必要であることが確認できた.
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